劣化ウラン弾の閑話休題 その2

さて、劣化ウランは徹甲弾にだけ使用されているわけではありません。非常に密度が高いので、民間大型旅客機・貨物機のバラストにも使用されています。墜落事故の場合にはこれが環境中に放出される恐れがあるわけです。

ということで、1992年10月4日にアムステルダムで起きたボーイングB747-358Fの墜落事故に関する論文が引っかかってきましたので読んでみます。2つありますが、どちらも要旨のみです。

最初は「Evaluating the risk from depleted uranium after the Boeinf 747-258F crush in Amsterdam, 1992」という題の論文で、J. Hazard. Mater.誌の2000年8月28日号、通巻76巻(1)、39-58ページに掲載されたものです。著者はオランダのUijt de Haag PA氏ら。

「1992年10月4日、アムステルダムのBijlmermeerにあるアパートに大型貨物輸送機が突っ込んだ。事故のあと時間がたつにつれて体調不良を訴える住民が増加したため、事故により有害な物質が放出されたのではないかと疑われた。この航空機にはバラストとして積んであった劣化ウランのうち150kgが事故後の調査では見つからなかったため、酸化ウラン粉末に住民がさらされて健康被害を生じたのではないかという可能性が指摘された。事故から6年後、その真偽を定めるべく健康調査が行われた。事故当日の気象条件や、事故現場の地形から、事故で生じた火災現場のすぐそばにいた人の劣化ウラン暴露量を計算した。火災により生じる酸化ウランは水に溶けにくいので、化学毒性は放射線毒性よりも低いと考えられた。計算の結果、火災現場のすぐそばにいた人でも被爆量は1マイクロシーベルトから1ミリシーベルトの間で、急性障害を起こすような値には達していなかった。よって、劣化ウランの暴露により健康被害が生じたとは考えにくい。」

なぜ難溶性ウランの化学毒性の影響が放射線毒性より低いと考えるのか、というのは劣化ウラン弾の話その4の論文にある許容量のところを参照。この論文では劣化ウラン原因説には否定的です。

次は「The cares and anxiety of those involved in the bijlmermeer aviation disaster did not diminish following the medical investigations」という題の論文で、Ned Tijdschr Geneeskd誌(オランダ語)の2005年6月4日号、通巻149巻(23)、1257-60ページに掲載されたものです。著者はオランダ・アムステルダム大学学術医療センターのvan Dijk FJ氏。

「1992年10月4日、貨物機がアムステルダムのmijlmermeerに墜落し、43人が死亡、何百人もの人が住処を失った。何年間も混乱が続き、メディアも長期にわたり注目し、墜落原因や、放出されたであろう物理・化学・生物学的リスクファクターへの暴露に関して公聴会や議会での取り調べが行われた。今までに2つの大規模な医学的調査がなされ、事故に巻き込まれた人と巻き込まれなかった人における自覚症状や精神的訴えについて研究された。その後、事故に巻き込まれた人が訴える不安感が自覚症状にどう影響しているか、という調査も行われた。結果、事故に巻き込まれた人の間では自覚症状を訴える人が多かったが、血液・尿などの検査ではとくに異常がみられなかった。これらの調査は非常に注意深く行われたが、巻き込まれた人は自分の健康に対して非常に敏感になっているため、偏りが出た可能性も否定できなかった。また、劣化ウランなどの化学物質は、調査時点で相当時間がたっているため、関与の程度を量るのは技術的に不可能だった。これらの調査により健康不安を打ち消すことはできず、未だに体調不良を訴える人がわずかずつ増加している。事故に巻き込まれて健康問題を訴える人は、未だ原因が有害物質暴露のためであると考えている。」

こちらの論文では、原因がはっきりしないようですが、要旨から見ると不安感(PTSD)を主に疑っているようです。

御巣鷹山に墜落したのはボーイングB747-100SRで、オランダ事故機と同系列なのでバラストに劣化ウランが使われていたと思いますが、生存者4名(バラストが搭載してある尾翼に近い座席にいた)、事故直後の現場で救出作業にあたった自衛隊員・消防隊員、取材にあたったマスコミ関係者、現場近くの上野村の住民などに、劣化ウラン被害としていわれているガンや先天異常などの健康被害が多発したということは聞かないので、航空機事故の長期ケアでは劣化ウラン被害よりPTSDなどの心のケアを優先した方がいいでしょう。
(2006年4月2日)



劣化ウラン弾の話に戻る         トップページに戻る