劣化ウラン弾の閑話休題 その5

劣化ウランの健康被害を調査する研究だけでなく、地中にばらまかれてしまった劣化ウランの毒性を薄めるための研究も行われていますので、今回はそれに関する論文をいくつか。地下水に溶けている6価のウランイオンを還元するという手法について論じられています。

「Biological and chemical interactions with U(VI) during anaerobic enrichment in the presence of iron oxide coated quartz.

酸化鉄で覆われた石英の存在下における好気環境での6価ウランの生物学的・化学的相互作用

Water Res. 2005 Nov;39(18):4363-74. Epub 2005 Oct 17.
Lee BD, Walton MR, Megio JL.
Biological Sciences Department, Idaho National Laboratory

共汚染物としてミネラルやトリクロロエチレンを生じる酸化鉄の存在下で、6価ウランがどのような化学的・生物学的動態を示すか調査するため、縮図実験を行った。異化的鉄還元バクテリア(DIRB)および硫化物還元バクテリア(SRB)存在下での酸化ミネラル表面の6価ウランと酸化鉄部分構造を調べた。微生物はアイダホ国際研究所北部テストエリアの地下水から採取したもので、石英表面の鉄と同様、吸収培地内の6価ウランの還元能力を持つ。早期には6価ウランによる微生物活性の変化は明らかでなかった。6価ウランの生命力が欠如した除去は、炭酸塩の存在下で促進された。実験が進行すると、6価ウランはさらに除去され、発酵による乳酸のプロピオン酸や酢酸への変化を伴った。実験後期では、乳酸はDIRBを豊富に含む縮図において成長培地から激減し、6価ウラン濃度は乳酸を添加するまで増加した。乳酸を負荷して発酵を続けると、6価ウランの濃度は再びゼロ近くまで低下した。同様の結果はSRB存在下でも得られたが、ウラン濃度が低く、炭酸塩を豊富にするとウラン濃度が上昇するようなこともなかった。トリクロロエチレンが共汚染物として存在する場合、化学的・生物学的相互作用は、酸化鉄システムにおける6価ウランの流動化および不動化に重要であると考えられた。興味深いことに、テストされた微生物培養による還元性脱クロル化とは似合わない酸化還元状況の影響のためか、縮図に存在するトリクロロエチレンは、脱クロル化されなかった。」



鉄還元バクテリアおよび硫化物還元バクテリアによる6価ウランの還元を研究したもの。鉄還元バクテリアによる6価ウラン還元が示されています。



「Carbonate effects on hexavalent uranium removal from water by nanocrystalline titanium dioxide.
ナノ結晶化2酸化チタンによる、水からの6価ウラン除去におけるチタン炭酸塩の効果

J Hazard Mater. 2006 Aug 10;136(1):47-52. Epub 2005 Dec 13.
Wazne M, Meng X, Korfiatis GP, Christodoulatos C.
Center for Environmental Systems, Stevens Institute of Technology, Hoboken, NJ 07030, USA

ナノ結晶化2酸化チタンは、中性もしくはアルカリ下で、劣化ウランに汚染された水を浄化するのに用いられる。ナノ結晶化2酸化チタンは、1gあたり329平方メートルの表面積、1nmあたり11サイトの表面積サイト密度、1gあたり0.415立方センチメートルの孔容積、6cmの結晶サイズをもつ。これは6価ウランの除去におけるバッチテストに使用されてきた。しかし、pH6以上で、イオン化炭酸塩の存在する場合、その効果が減少するという欠点がある。吸着等温線、FTIRスペクトロスコピー、表面電位測定により、その原因を調査した。その結果、吸着された6価ウランが中性では炭酸塩と複合体を作らないことが分かった。炭酸塩が存在する中性・アルカリ状況下で、2酸化チタンによる6価ウランの除去効率が低下することは、無機炭酸塩による水溶性6価ウラン複合体の形成に寄与する。ナノ結晶化2酸化チタンは、pH60.01モーラー炭酸塩存在下で、市販されている2酸化チタンの4倍の6価ウラン吸着効率を持っていた。この新素材は、防衛研究所における劣化ウラン汚染水の除去に使用された。」



こちらはナノ結晶化2酸化チタンによる化学的なウラン除去について。アルカリ環境では効率が落ちるという欠点はあるようですが、劣化ウラン汚染水の浄化に有効な手段のようです。



「Heterogeneous response to biostimulation for U(VI) reduction in replicated sediment microcosms.
複製された堆積物環境における6価ウランの還元のための生物学的活性化に対する雑多な反応

Biodegradation. 2006 Aug;17(4):303-16. Epub 2006 Feb 21.
Nyman JL, et. al.
Department of Civil and Environmental Engineering, M42 Terman Engineering Center, Stanford University

ウラン還元の生物学的活性化を調査するための野外スケールでの実験を、テネシー州オークリッジの自然・促進微生物処理野外調査センター(FRC)で行った。野外実験を促進するため、我々はFRC処理ゾーンの井戸からの汚染土壌を含む複製環境を構築し、流体化されたベッドリアクターからの接種材料を加えた。硝酸塩の還元を行った後、硫酸塩および可溶性6価ウラン濃度が減少していた。縁構造近傍X線吸収スペクトロスコピー(XANES)により、生物学的に活性化された複製環境からの土壌に4価のウランが生成されているのを確認したが、個体の3価鉄の還元は行われていなかった。3つのフラグメントのうち2つで16SrDNA遺伝子の終末制限フラグメント長多型性(T-RFLP)分析を行った。クローンライブラリとの比較の結果、これらのフラグメントはアシドヴォラクス属の細菌に関連する脱硝酸化微生物であり、接種材料から分離されたアシドヴォラクス属の細菌が6価のウランを還元していた。T-RFLP分析プログラムおよび化学分析による調査の結果、発酵性で硫酸塩還元性のバクテリアの存在および活性を2週間後に探知した。これらの微生物がウランの還元に寄与していたと思われる。いくつかの複製環境では、サンプルに微生物的および・もしくは鉱物学的な異質性がみられた。硫酸塩、酢酸塩、エタノールが6価の可溶性ウランの増加を呈した複製環境でのみ枯渇していた。このことは、硝酸塩還元バクテリアの基質が制限された状態では、6価ウランの脱着率が6価ウランの還元率を超えることを示している。以上より、ウラン還元における効果的な化学的送付の重要性と、連続および並行プロセスの役割が強調された。」


生物学的な6価ウランの還元を調べた実験で、脱硝酸微生物や硫酸塩還元性バクテリアによる還元が認められました。エタノールや硫酸塩といった基質と共にこれらバクテリアを加えてやれば、汚染土壌の浄化に役立つようです。



「Removal of depleted uranium from contaminated soils.
汚染土壌からの劣化ウランの除去

J Hazard Mater. 2006 Aug 10;136(1):53-60. Epub 2005 Dec 28.
Choy CC, Korfiatis GP, Meng X.
Center for Environmental Systems, Stevens Institute of Technology

劣化ウランで汚染された土壌および水の問題に、公衆衛生的関心が高まっている。そのため、汚染された土壌から劣化ウランを取り除く方法の開発には多大な関心が寄せられることとなった。アメリカ陸軍演習場から採取した2つの劣化ウラン汚染土壌は、粒子サイズ分布、総ウラン濃度、除去可能なウランで特徴づけられる。土壌Aは、砂を主体としており、ウラン含有量は3210mg/kg399万ベクレル/kg)で、粒子直径0.075mm未満のものが83%を占め、炭化物、鉄、酸化マグネシウム、有機物などを含んでいる。土壌Bは、砂状の泥に分類され、ウラン含有量は1560mg/kg194万ベクレル/kg)で、粒子直径0.075mm未満のものは64%であり、可溶性の6価ウランおよび不溶性の4価ウランが存在している。クエン酸、炭酸ナトリウム、過酸化水素を劣化ウランの抽出に使用した。クエン酸と炭酸ナトリウムは土壌A50-60%の劣化ウランを除去できたが、土壌Bでは20-35%しか除去できなかった。過酸化水素は両土壌から60-80%の劣化ウランを除去することができた。」



こちらは化学的な除去について。過酸化水素も有効なようですが、果たして土壌にばらまいて良いものかどうか。



「Sorption and bioreduction of hexavalent uranium at a military facility by the Chesapeake Bay
チェサピーク湾に隣接する軍事施設における6価ウランの収着および生物学的還元

Environ Pollut. 2006 Jul;142(1):132-42.
Dong W, et, al.
Center for Water and Health, Department of Environmental Health Sciences, Johns Hopkins Bloomberg School of Public Health

チェサピーク湾に直接隣接するアメリカ陸軍徹甲弾試験場アバディーンは、その土壌に70トンを超える劣化ウラン弾を含む。以前の環境モニターの結果、射爆場からの劣化ウランの移動は限定されており、アメリカで最も大きな河口には劣化ウランが流出していないことがわかっている。どんな物理的および生物学的反応が劣化ウランの輸送メカニズムを構成しているか調べるため、核物質の収着と生物学的形態変化行動を地形化学モデルおよび研究室での微少環境(500ppbの6価ウランを含む)で研究した。6価ウラン濃度の早期の低下が、6価ウランと土壌中の自然有機体の急速な連携により、無菌な状態でも非殺菌な状態でも生じた。6価ウランの4価ウランへの還元は、非殺菌な微少環境でのみ観察された。非殺菌なサンプルに於いては、ウランの内在的な生物学的還元にクロストリジウム目のバクテリアが関与しているとみられ、酢酸を加えても少ししか改善されなかった(121日目で41%56%)。全体として、本研究は、チェサピーク湾近くのアバディーン試験場からの劣化ウランの移動が、自然有機体による6価ウランの急速な収着と、それに続いてゆっくりと起こる4価ウランへの内在的な生物学的還元に限られることを示した。」



劣化ウランの地中の移動に関する論文。無菌状態でも地中6価ウラン濃度の低下が見られ、菌のいる状態ではさらに4価ウランへの還元も認められたとのこと。ただ劣化ウランの移動は限定的で、あちこちに拡散していくということはないとしています。


ということで、生物学的・化学的な6価ウランの処理方法について研究が進んでいます。ただ処理剤による環境汚染や生態系への影響を考えると、汚染地域にそのまま処理剤や細菌を撒くわけにはいかない気もします。高濃度汚染土壌を回収して処理する際には役立つかも。



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