劣化ウラン弾の健康被害については、様々に論議されています。テレビ中で「核弾頭を積んだミサイル」などと思いっきり誤解して紹介されたこともあります(実際は劣化ウラン弾芯をもつAPFSDS弾)。当サイトの軍事大事典では適当な出版済み文献資料が無かったので「国連が調査中」のひとことで済ませていますが、それも何なので少ししらべてみました。

情報収集源として、Entrez PubMedという医学文献無料検索サイトを使用しました。これは、キーワードを入力することで世界中の医学系論文を検索し、タイトル、掲載誌、著者、要旨(abstract)を入手することができるという優れものページです。さらにいくつかの論文は、発行元に数十ドル程度の料金を払うことで全文を入手することが可能です。
早速、「Depleted uranium」と入力してみると、200近い論文がヒットしました。そのうちいくつかをピックアップして見てみることにします。

まずは、Science of the total envioronmentという雑誌の2004年度発行通算327巻337-340ページに掲載された、Caracterisation of depleted uranium (DU) from an unfired CHARM-3 penetraterという論文を見てみましょう。幸い全文が手に入りました。著者はイギリスのUniversity of Readingに在籍しているE.R. Truemanら3人です。
これはCHARM-3というイギリスのチャレンジャー戦車が使用している120mmライフル砲用劣化ウランAPFSDS弾の、発射前における含有成分を分析したものです。健康被害の話とは直接関係ありませんが、劣化ウラン弾の被害はウランのみに拠るものでない可能性もありますので、読んでおいて損はないでしょう。

前書きで、劣化ウランが主に徹甲弾や装甲、飛行機の重量バランス、放射線防護シールドなどに使用されること、劣化ウランはBAeシステムズ社から6フッ化ウラン(tails depleted uranium)もしくは核燃料からプルトニウムを抽出した残渣(reprocessed DU)の形で供給されること、後者の劣化ウラン中にはごく微量の核分裂で生じる物質やウラン以外の核物質が含まれることなどが記されています。また、加工中にチタン、アルミニウム、銅などの金属が混入するとのことです。

研究の内容に入ります。使用したのはBAeシステムズ社から提供された、CHARM-3徹甲弾の弾芯切片で、直径25mm、厚さ0.5mm。これをgamma spectrometryおよびInductively Coupled Plasma Mass Spectrometry、Inductively Coupled Plasma Optical Emission Spectrometerにかけて、含まれる放射性同位体および非放射性物質を分析しています。
まず放射性同位体に関しての結果ですが、核子の崩壊量(単位・ベクレル/グラム)で表されており、単純に質量比として換算できません。一応結果を示します。劣化ウラン弾1グラムあたり12000ベクレル超がウラン238によるものです。その他ウラン234・ウラン235が少量、99Tc、ウラン236、237Np、243Am、241Amなどが微量含まれ、プルトニウム239・240・プルトニウム238もごく微量検出されました。非放射性物質は質量比で表されており、チタンが0.6%、珪素が0.1%、アルミニウムが0.07%、コバルトと亜鉛が0.02%、カルシウム・銅・ニッケル・鉛・Zrがそれぞれ0.01%以下の割合で含まれていました。

この結果から、著者らは、ウラン以外の放射性同位体から発生する放射線は1グラムあたり10ベクレル未満と微量なものであるとしています。この分析が環境や人間への影響を計算する上で役立つだろう、とも述べています。

以上から、劣化ウラン弾にはウラン以外にもごく微量の放射線源、重金属類が含まれていることが分かります。ただし、これらが及ぼす身体への影響には全く触れられていません。成分分析だけです。


では、貫徹後の劣化ウラン弾はどのような影響を及ぼすのかについて述べた論文を見てみましょう。今度はHealth Phys.という雑誌の2004年7月号、通算87巻1号、P.57-67に掲載されたDepleted uranium dust from fired munitions: physical, chemical and biological properties.という論文です。これは要旨しか手に入りませんでした。著者はAtomic Energy of Canada Limited, Chalk River Laboratoriesに所属するMitchel RE氏とSunder S氏の二人です。

まず劣化ウランを含む砲弾を装甲標的にぶち当てて周辺大気を採取、内容をMass spectroscopic analysisで分析しています。ただ、砲弾および標的の詳しい種類や構造、どのように大気を採取したのかは要旨だけでは分かりませんでした。結果、大気分圧の0.19%程度が劣化ウラン粒子で占められることが分かりました。その他、鉄・アルミニウム・珪素が含まれていました。粒子の直径は300ミクロン以下のものが全粒子質量の47%、10ミクロン以下のものが14%を占めました。これだけ小さな粒子は、吸入すると肺胞末端まで到達する可能性があります。劣化ウラン粒子は大部分が酸化ウラン(7酸化3ウランが47%、8酸化3ウランが44%、2酸化ウランが9%)でした。
つぎに、劣化ウラン化合物を合成し、ラットに吸入させたり筋肉内に埋め込んだりして排泄量を見ています。劣化ウランは腎臓から尿中に排泄され、高濃度になると排泄されるパーセンテージが減ることが分かりました。また、比較のために天然ウランでも排泄を見ていますが、等濃度の劣化ウランに比べて排泄が速いということでした。劣化ウラン・天然ウラン両者とも高濃度吸入では腎臓に障害を起こしましたが、劣化ウランの方が低い濃度で障害が起こるため、劣化ウランに含まれるウラン以外の重金属が障害を起こす可能性があると考察しています。また、筋肉内に埋め込んだ場合には腎障害は起きませんでした。

この論文では弾薬や装甲の種類が不明なので、どの程度現実をシミュレートしているかは確定できません。腎障害を起こした「高濃度吸入」がどれくらいなのか不明ですが、排泄テストでは最大200μgを吸入させたとのことなので、これと同じくらいとするとだいたいマウスの体重1gあたり1μg、体重1kgあたり1mgになります。

周辺大気の採取法は、別の論文(Measuring aerosols generated inside armoured vehicles perforated by depleted uranium ammunition. Radiation Protection Dosimetry誌2003年、通算105巻、167-170ページ。著者はPacific Northwest National LaboratoryのM. A. Parkhurst氏)に記載されていました。これを参考にしたかは分かりませんが、おそらく似たような方法で採取したと思われます。

次回は劣化ウランによる生体への影響を培養細胞や実験動物で調べた論文について報告する予定。

                                                   (2005年3月13日)

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劣化ウラン弾の話 その1

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