劣化ウラン弾の話 その10

細胞レベルの話から人間の影響まで一通り見てきましたが、実験動物を使った話をすっ飛ばしたことに気が付きました。チェックしたところ、山のように論文が出てきたため、とりあえずアブストラクトだけでも片っ端から要約してみます。
表は、掲載誌とタイトル、著者、要約という順番になっています。括弧【】内は私の付けた注釈です。
ついでと言ってはなんですが、細胞実験の論文もいくつか要約しました。

@ Arch Toxicol. 2006 Feb 25
Effects of depleted uranium after short-term exposure on vitamin D metabolism in rat.
Tissandie E, Gueguen Y, Lobaccaro JM, Paquet F, Aigueperse J, Souidi M.
ウランは骨、腎臓、肝臓、脳に対して毒性を持つことが示されている。本研究では、劣化ウランがラットのビタミンD3活性経路に及ぼす影響について調べた。ラット体重1kgあたり204mgの劣化ウランを経腸管投与し、1日後および3日後にビタミンD3代謝に関与する酵素や遺伝子など種々のパラメーターを測定した。
結果、投与1日後には血中ビタミンD濃度が62%上昇し、3日後には逆に68%減っており、3日後には副甲状腺ホルモンも90%減少していた。肝臓ではCYP2R1酵素のメッセンジャーRNA量が3日後に上昇し、CYP27A1酵素の活性が1日目には増加したが3日目には大きく減少した。腎臓では、CYP27B1酵素のメッセンジャーRNA量が1日後には11倍、3日後には4倍に増えていた。加えて、ECAC1、CABP-D9K遺伝子のメッセンジャーRNA量が1日後に増加、3日目に減少していた。
以上より、劣化ウラン投与によって、ビタミンDの代謝に関係する肝臓・腎臓の酵素が急性の影響を受けることが示された。

【メッセンジャーRNAの上昇は、タンパク合成の上昇を示します。タンパク量が増えていても、合成が上昇しているのか分解が低下しているのか判断できないので、メッセンジャーRNAを測定する方法をとります。投与量が多いような気がしますが(体重50kgのヒト換算で劣化ウラン10グラムになる)、abstractを見る限りはマイクロでなくミリグラム/kgのようです。】

A Arch Toxicol. 2006 Feb 16
Nephrotoxicity of uranyl acetate: effect on rat kidney brush border membrane vesicles.
Goldman M, Yaari A, Doshnitzki Z, Cohen-Luria R, Moran A.
湾岸戦争で劣化ウランがクローズアップされ、腎毒性のメカニズムや、腎以外の全身毒性についての研究が盛んになった。ウランによる腎毒性のメカニズムをさぐり、尿アルカリ化療法の効果を調べた。
酢酸ウランを投与すると、ラットの尿細管にあるグルコース輸送体の最大輸送量、最大輸送速度が減少した。しかし尿細管内のpHを7.6に保つと、毒性がほぼ消失した。
本研究により、ウランが腎尿細管のグルコース輸送能を減少させることと、尿のアルカリ化療法によってその抑制が可能であることが示された。

B Radiat Prot Dosimetry. 2006 Jan 25
CLINICAL DIAGNOSTIC INDICATORS OF RENAL AND BONE DAMAGE IN RATS INTRAMUSCULARLY INJECTED WITH DEPLETED URANIUM.

Fukuda S, Ikeda M, Chiba M, Kaneko K.
ラットに劣化ウランを投与し、腎臓および骨への影響を研究するため、それぞれの臨床的生化学マーカーを調べた。
オスのウィスターラットの大腿筋に、体重1kgあたり0mg【ネガティブコントロール】、0.2mg、1mg、2mgの劣化ウラン溶液(pH3.2)を注射し、尿と便を集めた。注射から28日後にラットを屠殺した。
体重は劣化ウラン投与後3-7日は減少し、その後増加に転じた。尿・便中の劣化ウラン濃度は注射後3-7日で急速に増加した。NAG/クレアチニン比【腎尿細管傷害を示す】は注射後3日目にピークとなり、ウラン注射量に比例した。また、腎臓中の劣化ウラン濃度もウラン注射量に比例した。血中BUN、クレアチニン【両者とも腎障害の程度を示す】もウラン注射量に比例して増加した。骨密度は体重1kgあたり2mgの劣化ウランを注射した群で減少していた。骨の代謝マーカーであるオステオカルシン、ピリジノリン、副甲状腺ホルモンは劣化ウラン注射群すべてで増加しており、微量の劣化ウラン投与による影響を鋭敏に捉えられると考えられた。

C Environmental Health Perspectives. Vol 114(1) Jan, 2006
In Vitro Immune Toxicity of Depleted Uranium: Effects on Murine Macrophages, CD4+ T Cells, and Gene Expression Profiles.
Bin Wan, James T. Fleming, Terry W. Schultz, and Gary S. Sayler
劣化ウランはウラン濃縮の際に生成される副産物である。これを暴露することで生じる免疫系への影響を調べるため、齧歯類のマクロファージ【免疫系細胞のひとつ。細菌などの異物をとりこんで分解する】や脾臓のCD4陽性T細胞(免疫系細胞の指揮官】のサイトカイン【細胞同士の通信に使用される物質】遺伝子発現について研究を行った。
マクロファージとT細胞を様々な濃度の劣化ウラン溶液に暴露させたところ、マクロファージは100マイクロモル・24時間暴露で、T細胞は500マイクロモル・24時間暴露で細胞死が生じた。サイトカインに関しては、細胞同士のシグナル伝達【情報のやりとり、ということです】に関与するc-jun、NF-κ、Bp65や、その受容体であるTECK、CCL25、インターロイキン【免疫細胞が分泌するサイトカイン】のIL-10、IL-5などが劣化ウランにより影響を受けることが示された。これによって生じる免疫系の乱れが発ガンや自己免疫疾患を引き起こす可能性がある。

D Mol Cell Biochem. 2005 Nov;279(1-2):97-104.
Leukemic transformation of hematopoietic cells in mice internally exposed to depleted uranium.
Miller AC, Bonait-Pellie C, Merlot RF, Michel J, Stewart M, Lison PD.
劣化ウランにより培養ヒト骨芽細胞がガン化することが分かっているが、他の細胞でもガン化するかどうか研究した。齧歯類の血液系培養細胞であるFDC-P1細胞を、劣化ウランを埋め込んだDBA/2マウスに移植したところ、76%に白血病が発症した。劣化ウランを埋め込まないものでの発症は12%に留まった。白血病細胞の特性を調べたところ、FDC-P1細胞由来であることが判明した。白血病の発症に先立って、腎、脾臓、骨髄、筋肉、尿中の劣化ウラン濃度が著明に上昇していた。
【この実験だと、FDC-P1細胞を移植したマウスでないと劣化ウランによる白血病が起きないとも取れます。劣化ウランを埋め込んだだけのマウスを調べるほうが良いのでは。】

E Arch Toxicol. 2005 Oct 18;:1-9
Short-term hepatic effects of depleted uranium on xenobiotic and bile acid metabolizing cytochrome P450 enzymes in the rat.
Gueguen Y, Souidi M, Baudelin C, Dudoignon N, Grison S, Dublineau I, Marquette C, Voisin P, Gourmelon P, Aigueperse J.
ウランは腎、骨、中枢神経、肝臓に毒性を示すことがわかっているが、肝臓に関しては報告数が少ない。肝臓は代謝を司る重要な器官であり、コレステロールなどの代謝に関与するCYP酵素に関して研究を行った。
劣化ウランをSDラットに投与し、1日後・3日後の状態を調べた。劣化ウラン投与後、CYP7A1活性は変化せず、CYP27A1活性も1日後は変化しなかったが、血清中の7α−ヒドロキシコレステロールが52%減少した。脂質代謝に関与する核内受容体にも変化がみられた。CYP3A活性は1日後に減少し、3日後には代償性の増加を見せた。
以上より、高濃度の劣化ウランがCYP酵素や核内受容体に作用して肝臓における代謝に影響を与えることが示された。

F Toxicol Sci. 2006 Jan;89(1):287-95.
Genotoxic and inflammatory effects of depleted uranium particles inhaled by rats.
Monleau M, De Meo M, Paquet F, Chazel V, Dumenil G, Donnadieu-Claraz M.
ウランの吸入により、肺線維症や肺ガンが生じうるが、そのメカニズムについては不明な点も多い。そこで、劣化ウランの吸入がラット肺のDNAにいかなる影響を与えるか研究した。
結果、劣化ウランの吸入で肺のBAL細胞【気管支肺胞洗浄液中に含まれる細胞。気管支に管を入れて水を流し込み、それを吸引して回収する】ではDNA鎖の断裂が生じ、炎症性サイトカインの遺伝子発現が亢進し、活性酸素の産生が増加した。DNAの変化は、炎症や酸化ストレスによる部分もあると考えられる。これらの影響はウラン投与量と比例しているとみられ、ウランの可溶性や吸入の仕方には影響されなかった。DNAの変化を詳しく解析すると、一部にDNA2重鎖切断が含まれており、劣化ウランからの放射線も関与していると考えられた。

G Toxicology. 2005 Oct 15;214(1-2):113-22.
In vivo effects of chronic contamination with depleted uranium on CYP3A and associated nuclear receptors PXR and CAR in the rat.
Souidi M, Gueguen Y, Linard C, Dudoignon N, Grison S, Baudelin C, Marquette C, Gourmelon P, Aigueperse J, Dublineau I.
ウランは骨、肝臓、腎臓に蓄積し、化学・放射線毒性を発揮することが報告されている。しかし、代謝機能に対するウランの細胞・分子学的影響に関しては今まで研究されていない。そこで、ラットに1日1mgの劣化ウランを9ヶ月間投与して影響を調査した。
その結果、代謝に関与する酵素のメッセンジャーRNAのうち、CYP3A1は脳で200%、肝臓で300%、腎臓で900%高くなり、CYP2B1は腎臓で300%高くなった。また、核内受容体であるPXRのメッセンジャーRNA量が脳で200%、肝臓で150%、腎臓で200%増加し、CARは肺で100%増加した。
ウランによって、上記の薬剤代謝酵素や核内受容体に影響が出ることが判明した。これにより、肝臓・腎臓での薬物代謝に異常を来し、作用が弱まったり、副作用が出現したりする可能性があると考えられた。

H J Toxicol Environ Health A. 2005 Jun 11-25;68(11-12):967-97.
Study of the reproductive effects in rats surgically implanted with depleted uranium for up to 90 days.
Arfsten DP, Bekkedal M, Wilfong ER, Rossi J 3rd, Grasman KA, Healey LB, Rutkiewicz JM, Johnson EW, Thitoff AR, Jung AE, Lohrke SR, Schaeffer DJ, Still KR.
SDラットに1×2mm大の劣化ウランペレットを0、4、8、12個埋め込み、27日後に尿中ウランを検査したところ、埋め込み数に比例して尿中ウラン濃度が上昇した。埋め込んで30日後に妊娠させたところ、子供の出生児体重、生存率、生後5・20日の体長に差はなかった。また、体表奇形も観察されなかった。神経学的な発達、免疫機能も調べたが、とくに影響はみられなかった。

I J Toxicol Environ Health A. 2005 Jun 11-25;68(11-12):951-65.
Effects of depleted uranium on survival, growth, and metamorphosis in the African clawed frog (Xenopus laevis).
Mitchell SE, Caldwell CA, Gonzales G, Gould WR, Arimoto R.
アフリカツメガエルの胚を4.8−77.7mg/Lの劣化ウラン溶液に96時間浸し、先天性異常発生の有無をみた。また、6.2−54.3mg/Lの溶液に64日間浸したものでも結果を調べた。
結果、先天異常の出現や死亡率の上昇、成長への影響はみられなかった。しかし、濃度に応じてmetamorphosis(オタマジャクシからカエルへの変化)の遅延がみられた。

J Neurotoxicology. 2005 Dec;26(6):1015-20. Epub 2005 Jul 5.
Enriched but not depleted uranium affects central nervous system in long-term exposed rat.
Houpert P, Lestaevel P, Bussy C, Paquet F, Gourmelon P
ウランは腎だけでなく、中枢神経系などにも影響を与えることが分かっている。本研究では、劣化ウランの長期暴露が睡眠覚醒リズムと行動に与える変化について調べた。
ラットに4%のウランを含む水を1.5ヶ月与え続けたところ、海馬、視床下部、副腎に正常の2倍のウランが蓄積した。天然ウランを投与したラットでは、逆説睡眠【ヒトでいうREM睡眠のこと】が38%増え、空間記憶容量が減り、不安行動が増えた。しかし、劣化ウランを投与したものではこのような変化が起きなかった。これは、天然ウランの放射線毒性によって中枢神経に影響が出たことを示唆するものである。

K Toxicology. 2005 Sep 1;212(2-3):219-26.
The brain is a target organ after acute exposure to depleted uranium.
Lestaevel P, Houpert P, Bussy C, Dhieux B, Gourmelon P, Paquet F.
劣化ウランの健康への影響は、主に化学毒性に基づくものである。腎臓がメインターゲットだが、脳にも影響があるとされる。今回はラットの睡眠覚醒リズムに対する影響について調べた。
ラットの腹腔内に体重1kgあたり144マイクログラムの劣化ウラン硝酸化合物を投与し、3日後に腎臓の劣化ウラン濃度を調べたところ、1gあたり2.6マイクログラムと腎障害を起こさないレベルだった。ウラン投与後1日で食事量が減り、3日後には逆説睡眠が18%減少した。劣化ウラン投与量を約半分にしたものではとくに影響が出なかった。以上より、中等度の劣化ウラン暴露で腎臓同様に脳にも影響が出ることが分かった。
【すぐ上の論文と結論が逆ですが、投与経路や蓄積濃度の違いによることが考えられます。】

L Environ Res. 2006 Feb;100(2):205-15. Epub 2005 Jun 6.
Evaluation of the effect of implanted depleted uranium on male reproductive success, sperm concentration, and sperm velocity.
Arfsten DP, Schaeffer DJ, Johnson EW, Robert Cunningham J, Still KR, Wilfong ER.
劣化ウラン弾による誤射で体内に劣化ウラン弾の破片が食い込み、手術ができず体内に残存することがある。齧歯類の実験では、埋め込まれた劣化ウランの一部が溶け出して生殖腺に蓄積することや、天然ウランが精祖細胞【精子の元になる細胞】や精細管【精子が作られるところ】に毒性を発揮することが分かっている。今回、劣化ウランを埋め込むと精子の数や運動能力、受精能力にどんな影響があるかを調査した。
SDラットに1×2mm大の劣化ウランペレット0、12、20個や同じ大きさのタンタルペレット12個または20個を埋め込んだ。劣化ウランペレット20個の重量は760mgで、体重500gのラットに埋め込んだ場合、体重70kgの人間に換算すると0.2ポンド【約90g】が埋め込まれたことになる。術後150日を経過しても、ラットに毒性と思われる症状は出なかった。精子を調べてみると、速度と動き、妊娠能力には影響がなかった。

M J Toxicol Environ Health A. 2005 Jan 22;68(2):99-111.
The effect of stress on the temporal and regional distribution of uranium in rat brain after acute uranyl acetate exposure.
Barber DS, Ehrich MF, Jortner BS.
劣化ウランに長期暴露すると、脳のウラン含有量が増え、海馬の機能が変化する。しかし、短期暴露での脳への影響は不明な点も多い。
SDラットに体重1kgあたり1mgの酢酸ウランを1回腹腔内注射し、8時間、24時間、7日、30日後の変化について調査した。注射後、まず線状体と海馬のウラン濃度が速やかに上昇し、前頭葉、小脳などの濃度も上昇した。その後は排泄に向かったが、海馬、小脳、前頭葉では7日以降も濃度が上昇したままだった。水泳の強制など、ストレスを与えると、この排泄が早まった。

N Neurotoxicol Teratol. 2005 Jan-Feb;27(1):135-44.
Effects of short-term and long-term depleted uranium exposure on open-field behavior and brain lipid oxidation in rats.
Briner W, Murray J.
ラットに劣化ウラン水溶液(0、75、150mg/L)を2週間もしくは6ヶ月間投与した後、行動を観察し、脳の脂質酸化レベルを検討した。行動の変化は、2週間150mg/L投与の雄ラットで確認された。脂質酸化は、150mg/L投与の雌雄ラットで確認され、酸化レベルと行動変化の間に関連性が指摘された。6ヶ月投与では、雌雄共に行動変化が認められたが、脂質酸化の程度との間に関連は認めなかった。
以上から、劣化ウランは投与2週間前後で脳に脂質酸化を起こし、行動の変化をもたらすことが分かった。それ以上の基幹になると、脂質酸化以外の経路で行動の変化を起こすと考えられた。また、雌より雄の方が影響を受けやすいと思われた。

O Can J Physiol Pharmacol. 2004 Feb;82(2):161-6.
Effect of U and 137Cs chronic contamination on dopamine and serotonin metabolism in the central nervous system of the rat.
Houpert P, Lestaevel P, Amourette C, Dhieux B, Bussy C, Paquet F.
チェルノブイリ事故において、50-70年にもわたる放射線核種の内部被曝によって周辺住民に重大な影響が出る可能性が懸念されている。セシウム137を含むえさを1ヶ月間与えられたラットで、中枢神経系の神経伝達物質代謝にどのような影響があるかを調べた論文があるが、この手の実験はあまり行われていないのが現状である。
そこで、ラットに劣化ウラン(40mg/L)もしくはセシウム137(6500ベクレル/L)を含む水を1ヶ月間投与し、神経伝達物質であるドーパミンとセロトニンの代謝にどんな変化が生じるかを調べた。
結果、線状体、海馬、大脳皮質、視床、小脳におけるドーパミン、セロトニンおよびその代謝物の濃度は有意な変化が見られなかった。これは今までの報告と逆の結果である。

P J Environ Radioact. 2003;64(2-3):247-59.
Genomic instability in human osteoblast cells after exposure to depleted uranium: delayed lethality and micronuclei formation.
Miller AC, Brooks K, Stewart M, Anderson B, Shi L, McClain D, Page N.
放射線が遺伝子を不安定にすることは知られている。HOS細胞(ヒト骨芽細胞)を使用した実験で、劣化ウランが遺伝子の不安定性にどのような影響をもたらすか調べた。
劣化ウラン、ニッケル、ガンマ線照射を行い、細胞の致死率や小核【化学物質や放射線暴露で生じるDNAの切れ端】形成率を調べた。劣化ウラン、ニッケル、ガンマ線照射いずれも細胞死が起こった。また、劣化ウランでは暴露後36日経っても小核形成が見られたが、ニッケルやガンマ線照射では12日後には正常化していた。毒性を発揮しない濃度で劣化ウランを暴露させた細胞でも、小核形成がみられた。
以上から、劣化ウランはHOS細胞に対し、細胞死や小核形成といった毒性を発揮することが分かった。

Q Toxicology. 2002 Sep 30;179(1-2):105-14.
Depleted uranium-uranyl chloride induces apoptosis in mouse J774 macrophages.
Kalinich JF, Ramakrishnan N, Villa V, McClain DE.
劣化ウランが吸入や被弾などで体内に入り込むと、マクロファージ【大食細胞。異物を消化処理する】が処理しようとする。そこで、マクロファージの培養細胞系であるJ774細胞を使用し、可溶性塩化劣化ウランがどのような影響を及ぼすか調べた。
1、10、100マイクロモル/リットルの劣化ウランを投与すると、24時間以内に細胞の活力が低下した。これはアポトーシス【細胞自死】による影響が示唆された。また、DNAの断片化も観察された。
以上より、劣化ウランによってマクロファージのアポトーシスが誘発されると考えられた。

R J Inorg Biochem. 2002 Jul 25;91(1):246-52.
Depleted uranium-catalyzed oxidative DNA damage: absence of significant alpha particle decay.
Miller AC, Stewart M, Brooks K, Shi L, Page N.
劣化ウランは放射線毒性と化学毒性を持つが、天然ウランよりも放射能が低いため、放射線毒性は重要でないと考えられている。今回、劣化ウランが酸化によるDNA障害を引き起こすかどうか、アルファ崩壊【これを起こすとウランから放射線が出る】なしに活性酸素を誘発する反応を触媒するかどうかを研究した。そのため、化学毒性による活性酸素発生が放射線によるそれを100万倍上回るセッティングを行って実験した。
結果、劣化ウランは鉄よりもアスコルビン酸の酸化を6倍多く引き起こすことがわかった。これにより、劣化ウランはアルファ崩壊のあるなしに関わらずDNAの酸化による障害を引き起こし、ガン化を起こす可能性が示唆された。

S Environ Health Perspect 110:51.59 (2002).
Implanted Depleted Uranium Fragments Cause Soft Tissue Sarcomas in the
Muscles of Rats
Fletcher F. Hahn, Raymond A. Guilmette, and Mark D. Hoover
ラットの筋組織に0.75%のチタンを含む劣化ウラン片を埋め込み、タンタル(陰性コントロール)やトリウム232(放射性同位体。陽性コントロール)を埋め込んだ場合と比較した。劣化ウランは2.5×2.5×1.5mmもしくは5×5×1.5mmの小片4つもしくは2mm×1mmのペレット4つを埋め込み、タンタルは5×5×1.1mmの小片4つを埋め込み、トリウム232は筋組織に注入した。
ペレットを埋め込んだものでは、その周囲に結合組織のカプセルができたが、トリウム232では生じなかった。5mm角の劣化ウランペレットを埋め込んだものとトリウム232を注入したものでは肉腫の発症率が有意に増加し、2.5mm角の劣化ウランペレットと5mm角のタンタルを埋め込んだものでは肉腫の発症率が軽度に増加し、劣化ウランペレットを埋め込んだものでは腫瘍は見られなかった。
以上から、埋め込んだ劣化ウラン片が大きいほど肉腫の発症率が上昇することが分かった。

21 Toxicological Sciences 49, 29-39 (1999)
Distribution on uranium in rats implanted with depleted uranium pellets
T. C. pellmar, A. F. Fuciarelli, J. W. Ejnik, M. Hamilton, J. Hogan, S. Strocho, C. Emond, H. M. Mottaz, and M. R. Laudauer
劣化ウラン弾の慢性暴露による影響を調べるため、SDラットに劣化ウランペレットを埋め込む実験を行った。埋め込んでから1日後と、6・12・18ヶ月後に組織サンプルを取って調査した。
結果、全ての期間で腎臓と脛骨から高い濃度のウランを検出した。また、尿中からも高い濃度のウラン排泄が認められた。筋、脾臓、肝臓、心臓、肺、脳、リンパ腺、精巣からもウランが検出された。
以上から、筋肉にペレットを埋め込んだ場合、腎臓と骨がウラン蓄積の第1ターゲットになることが判明した。また、脳、リンパ節、精巣でも、ウランの蓄積により予期せぬ影響が生じる可能性があると考えられた。

22 Mutagenesis. 1998 Nov;13(6):643-8.
Urinary and serum mutagenicity studies with rats implanted with depleted uranium or tantalum pellets.
Miller AC, Fuciarelli AF, Jackson WE, Ejnik EJ, Emond C, Strocko S, Hogan J, Page N, Pellmar T.
1991年の湾岸戦争ではアメリカ軍の兵士が劣化ウラン弾による負傷を受け、中には手術で取れずに体内に残ったままの者もいる。負傷から年余を経過しても、尿中ウランは高い値を示したままである。劣化ウランによる変異原性に関しては、まだ知られていない点が多い。そこで、劣化ウラン長期埋め込みによる変異原性を調査するため、SDラットに劣化ウランペレットを埋め込む実験を行った。
結果、尿中ウランの変異原性は劣化ウラン埋め込み量および埋め込み期間と強い正の相関を示すことが判明し、尿中ウランの変異原性を調べることで体内ウランの暴露量・期間を推定することが可能になると考えられた。

23 Environ Health Perspect. 1998 Aug;106(8):465-71.
Transformation of human osteoblast cells to the tumorigenic phenotype by depleted uranium-uranyl chloride.
Miller AC, Blakely WF, Livengood D, Whittaker T, Xu J, Ejnik JW, Hamilton MM, Parlette E, John TS, Gerstenberg HM, Hsu H.
職業上のウラン暴露による健康への影響に関してはよく知られているが、体内に入り込んだ劣化ウランの影響に関してはまだ研究が少ない。今回、劣化ウラン塩化物をHOS細胞に暴露させる研究を行った。
結果、細胞はガン化し、K-rasガン原遺伝子が増殖し、Rbガン抑制遺伝子が減少し、クロマチン変異が生じ、ヌードマウスに移植すると腫瘍を生じた。
動物実験による確認が必要ではあるが、劣化ウランの暴露により、ニッケルなどの重金属と同様の細胞ガン化を引き起こすことが判明した。
【同じ実験をタングステンで行った論文を「劣化ウラン弾の閑話休題その3」で紹介しています。】

24 Int J Radiat Biol Relat Stud Phys Chem Med. 1980 Mar;37(3):249-66.
The carcinogenic effect of localized fission fragment irradiation of rat lung.
Batchelor AL, Buckley P, Gore DJ, Jenner TJ, Major IR, Bailey MR.
酸化ウランを含む液体をラットの肺に注入したり、エアロゾルを吸入させたりしてその影響を調べた。
注入した場合、酸化濃縮ウランが沈着した箇所に扁平上皮癌の発生が見られたが、酸化劣化ウランを吸入させたものでは肺にガンは発生しなかった。吸入実験は濃縮ウランエアロゾルでのみ行った。この場合も肺扁平上皮癌の発生が見られたが、注入よりも頻度が少なかった。濃縮ウラン投与または熱中性子を受けたラットからは肺腺癌が発生した。
以上から、濃縮ウラン酸化物を肺に投与すると扁平上皮癌が発生することが判明した。また、濃縮ウラン酸化物を吸入したものでは肺腺癌が発生しており、これは濃縮ウランから放出されるアルファ線による影響が考えられた。

25 Environ Toxicol. 2006 Jul 13;21(4):349-354
A search for cellular and molecular mechanisms involved in depleted uranium (DU) toxicity.
Pourahmad J, Ghashang M, Ettehadi HA, Ghalandari R.
ラットの肝細胞に酢酸ウラン(6価)を投与すると、グルタチオンの酸化が急速に生じ、活性酸素が形成され、脂質の過酸化が起こり、ミトコンドリアの膜電位が低下し、リソソーム膜が破裂し、肝細胞の融解が生じる。こういった細胞毒性は、活性酸素スカベンジャー、抗酸化剤、グルタミン(ATP産生物質)により防ぐことができる。また、グルタチオンやシステインによってウラン取り込みを減少させると酸素の取り込みが増加し、この効果はカルシウム2価イオンによって抑制された。このことは、肝細胞における活性酸素形成にグルタチオン経路が関与していることを示唆する。チトクロムP450の抑制剤、とくにCYP2E1に対する抑制でウランの細胞毒性を抑制することができる。
以上から、6価ウランの毒性は代謝抑制や活性酸素生成に伴うミトコンドリア・リソソーム毒性と関係することが分かった。

26 Biol Trace Elem Res. 2006 Apr;110(1):61-72.
Depleted Uranium Is Not Toxic to Rat Brain Endothelial (RBE4) Cells.
Dobson AW, Lack AK, Erikson KM, Aschner M.
ラットの脳上皮細胞(RBE4)に劣化ウランを投与し、その影響を調べた。
RBE4細胞内への8酸化3ウラン塩化物の取り込みが確認されたが、細胞障害はほとんど見られなかった。

26本ほど概説しました。まとめてみると、
A.骨への影響(論文1、3)
B.脳への影響(論文11、12、14、15、16、26)
C.肝臓への影響(論文6、25)
D.腎臓への影響(論文2)
E.免疫系への影響(論文4、18)
F.DNAへの影響、発ガン(論文5、7、17、19、20、23、24)
G.生殖細胞への影響(論文13)
H.子孫への影響(論文9、10)
I.その他(論文8、21、22)

で、子孫への影響以外では概ね悪影響が出ており、劣化ウランの危険性を示すデータとなっています。これらはあくまでも動物実験・細胞実験レベルでのデータであり、同じ条件で人間に投与したとしても同じ結果が得られるとは限りません。劣化ウラン弾使用地域における疫学調査が重要です。
(2006年7月31日)

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