さて、今回は湾岸戦争で使用された劣化ウラン弾に関する研究の論文についてです。
1991年1月に開始された戦争なので、14年以上が経過しており、まとめ論文(レビュー)が出ていましたので、まずそれから読んでみましょう。

タイトルはEnvironmental and health consequence of depleted uranium use in 1991 Gulf Warで、著者はポーランドのLodz大学Institute of Applied Radiation所属のHenryk Bem氏と、クウェート大学Radiation Safety UnitのFiryal Bou-Rabee氏です。掲載されたのはEnvironment International誌の通巻30巻(2004年)、123-134ページ。

まずはIntroductionから。
「1991年の湾岸戦争、1994年のボスニア紛争、1999年のコソボ紛争で劣化ウラン弾が使用されたのち、間違っていて誤解を生むような悲惨な意見や、恐ろしい予想が発表された。これらは科学的に裏付けがなく、黙示録のような意見であり、幸いなことに学術文献にされることはなかったが、新聞やインターネットに掲載され、『専門家』を自称する人々の目に触れることとなった。とくに、アメリカ兵の発症者が10万人に及ぶとされる湾岸戦争症候群や、コソボに派遣されたイギリス兵の数人が最近罹患した白血病の原因が劣化ウランであるという説が流された。しかし、国連やWHOなどによる科学的な報告や研究により、劣化ウランによる健康被害はなく、安全であるということが分かってきている。」

劣化ウラン使用反対派にケンカを売っているような文ですが、最初の方をそのまま訳したらこうなりました。

「湾岸戦争では300トンの劣化ウランが2万平方キロの地域にばらまかれた。それらの一部は10ミクロン以下の酸化ウラン粒子となったが、それらは速やかに拡散するか、飛散するか、ターゲット付近に積もった。また、劣化ウランの大部分(最大90%程度)は航空機から発射され、大部分は目標からそれて地面にめり込んだ。それは時間とともに腐食し、土中に拡散し、ゆっくりと酸化して水溶性化合物に変化した。これらの劣化ウランは地表に移動したり、地下水に溶け込んだりして食物連鎖に入ったと考えられる。よって、人間が劣化ウランに暴露される可能性としては、外部被曝、ウラン微粒子の吸入、食物や水からの摂取などとなる。
このレビューでは、湾岸地域にばらまかれた劣化ウランの量を測定し、他の標準的な場所と比較し、その影響を検討した。」

航空機から発射された劣化ウラン、というのはA-10A攻撃機の30mmガトリング砲弾のことと思われます。事典の方にも書きましたが、このガトリング砲は2秒で100発強の弾丸を発射します。このうち75-80%が劣化ウラン製のPGU-14/B徹甲焼夷弾です。ミサイルのような1発必中の兵器でないので外れ弾が多く、とくにトリガーを引いてからの0.55秒は弾道が安定しないのでなおさらです。また、劣化ウラン弾といえば対戦車弾、というイメージがありますが、A-10の場合にはソフトスキンでも歩兵陣地でも同じように撃ち込む(機関砲弾の残り20-25%は焼夷榴弾で、両者の撃ち分けは不可能)ので、戦車の近くでないからといって安心はできません。

さて、本文に入ります。最初は環境中のウランについてと、天然ウラン・劣化ウランの物理化学的特性の説明です。

「天然ウランは99.2836%のウラン238と、0.711%のウラン235と、0.0054%のウラン234からなる。半減期はそれぞれ4.5×10^9年、7×10^8年、2.5×10^5年。密度は1立方センチあたり19.07gで、白銀色の金属であり、融点1132度、沸点3818度。天然ウランは崩壊により生じた他の放射性同位体といっしょに存在する。地表での天然ウラン濃度は0.1-20mg/kg(ppm)で、平均は2.8mg/kg。海水中の濃度は3ppb(ppbはppmの1000分の1)と非常に薄い。河川や湖では、0.1ppbから10ppmと場所によって大きく異なる。空気中にも漂っており、その量は1立方メートルあたり0.02から0.4ナノグラムで、平均0.1ナノグラム。ベクレル換算で1立方メートルあたり1マイクロベクレル。食物や水などを通してこれらのウランは人間の体内にも取り込まれ、成人は1年に460マイクログラムを食物と水から、0.6マイクログラムを空気から体内に摂取しているとされる。人間の体内に含まれるウランの量は、数マイクログラムから数百マイクログラムまで様々だが、そのうち50%は骨に、20%は筋肉に存在する。これによる体内被曝は1年に0.6マイクロシーベルトで、自然放射線総被爆量の2.4ミリシーベルトの中でごく微量を占めるにすぎない。」
「3種類のウラン同位体のうち、ウラン235のみが核分裂物質であり、原子炉燃料などに使用する場合には沸点56.5度の6フッ化ウランに加工してウラン235濃度を高める必要がある。このときに生じる副産物が劣化ウランで、ウラン235を約0.2%含む。ウラン235を5%に濃縮したウランを1kg作ると、劣化ウランが5kg生成される。その量はアメリカだけで70万トンあり、年に3万トンずつ増加している。また、使用済み核燃料棒も劣化ウランとして使用されるので、微量のウラン236やプルトニウムを含むが、劣化ウラン1kgの放射能14.8MBqのうち、ウラン236は71kBq、プルトニウム239・240は12.9Bqなので、ほとんど無視できる量である。劣化ウランは原子番号が大きく、密度も高いので、使用済み核燃料の輸送コンテナや、飛行機のバラストとして使用される。また、2%のモリブデンもしくは0.75%のタングステンを加えて徹甲弾に加工される。劣化ウラン弾は1970年代からNATOに配備され、1973年の中東戦争以降の戦場で威力を発揮した。天然ウランは1kgあたり25.4MBqの放射能を持つので、劣化ウラン弾はその60%の放射能を持っていることになる。」
「ウラン238は半減期45億年でアルファ崩壊してトリウム234になり、ついで半減期24.1日でベータ崩壊してプロトアクチニウム234となり、半減期1.1分でベータ崩壊してウラン234となる。このとき放出される特定エネルギーのベータ線とガンマ線を検出することにより、間接的にウラン238を測定できる。」

劣化ウランはウランのみならず、プルトニウムなど他の放射性物質を含みますが、その量は非常に微量で、無視できる程度としています。ちなみにこのデータは、国連環境プログラム(UNEP)の2001年の報告によります。

続いて、ウラン及びその化合物の健康に対する影響について。

「ウランは化学的毒性と放射線毒性を持つ。放射線毒性については、外部被曝によるものと内部被曝(食物・水の摂取や呼吸に伴い体内に入る)によるものがある。」
「劣化ウラン弾に使用される金属ウランは不溶性であり、体液中には分布しない。しかし、空気や水に触れることで酸化し、二酸化ウランを形成する。弱酸性の環境下ではウランは6価の陽イオンとなり、二酸化ウランが2価の陽イオンに変化する。このイオン化したウランはさらに二酸化二炭酸ウランのイオンを形成し、可溶性となる。こうして金属ウランはゆっくりと水に溶け、飲料水などから体内に吸収される。」
「戦車に命中したり、汚染された土壌から舞い上がったりした劣化ウラン(主に二酸化ウラン、三酸化ウラン、八酸化三ウラン)のうち、直径10ミクロン以下のものは終末気管支や肺胞に達し、かなりの時間そこにとどまる。そのうちウランの標的臓器である腎臓に達するものは1%以下である。」
「ウランの毒性は、動物実験およびウラン鉱山労働者、核燃料・劣化ウラン弾取扱者で調査されている。ウランの化学的毒性は、カドミウムや無機水銀など他の重金属と類似していると考えられており、糖やアミノ酸の再吸収阻害作用をもつ。ウランは体内に吸収されて血中に入ると、24-48時間以内に90%が腎臓から排泄され、残りは最終的に骨の表面にカルシウムとともに沈着する。体重1kgあたり0.1ミリグラム以上のウランを摂取した場合、排泄のため腎臓に集中したウランが腎障害を引き起こす。動物実験では、腎臓に3ppmのウランが含まれた場合に障害を起こすことが分かった。」
「ヒトにおける研究としては、オークリッジの核施設およびスプリングフィールド兵器工廠の労働者を対象にしたものがある。前者では一般人に比べて肺ガンの罹患率が高かったが、ラドンなど他の放射性物質や喫煙の影響も考えられた。また、白血病や骨ガンの罹患率には両者とも変化はなかった。動物実験では劣化ウランの変異原性および発ガン性が報告されているが、ヒトを対象とした調査では実証されていない。」
「すべての天然ウラン同位体はアルファ崩壊するが、ウラン235だけは144keVまたは186keVのガンマ線放射を伴う。ウラン崩壊に伴い発せられるアルファ線の到達距離は、空気中で4cm、人体軟部組織で50ミクロンである。よって、ウランによる外部被曝の場合、皮膚の角質層外層より下には到達できない。ウラン238の崩壊に伴って生じるトリウム・プロトアクチニウムは、ベータ線およびガンマ線を発するが、ウラン238の半減期は非常に長いので、トリウム・プロトアクチニウムの量はウランに比べて非常に少なく、これによる放射線被曝の影響も少ないと考えられる。以上より、劣化ウランによる外部被曝の影響はほとんどないと思われる。地面に放置された重量280gの劣化ウラン弾から20cm離れたところでは、1時間あたり250ナノシーベルトを被曝する。1m離れると毎時10ナノシーベルトとなる。ちなみに土中に含まれる自然放射能からうける線量は、1m離れたところで毎時41ナノシーベルトである。軍の報告によると、劣化ウラン弾を搭載した戦車に搭乗している乗員は、ガンマ線により毎時0.1-0.3マイクロシーベルトを被曝する。もしもこの戦車に24時間、365日搭乗していると、2.6ミリシーベルトを被曝する。この量は、1年に被曝する自然放射線の線量2.4ミリシーベルトとほぼ同じである。もちろん実際にはそんなに乗らないから、年間の被曝量は1ミリシーベルト以下である。劣化ウラン弾から3cm離れた場所での線量は毎時2ミリシーベルトとされている。ICRPの勧告によれば、皮膚での被曝許容量は年間150ミリシーベルトなので、劣化ウラン弾を年に75時間以上皮膚に接触させることは避けるべきであろう。しかし、今のところ劣化ウラン弾の接触により皮膚に火傷などの障害を発生したという報告はない。以上から、劣化ウランによる外部被曝の影響は、一般人口で考える場合、無視できる範囲といえる。」
「劣化ウラン汚染地域では、体内被曝も生じる。クウェートやイラク南部における主な劣化ウラン暴露経路は、吸入であると思われる。内部被曝の影響は、暴露した放射性物質の性質と、標的臓器での滞留時間による。また、放射性物質の排泄率は、化合物の種類や、体液への可溶性、吸入した場合には粒子の大きさなどで変化する。ウラン化合物の排泄率に関していえば、二酸化ウランのイオンは可溶性であり、吸入されても血中に溶け出して10日強で体外に排泄される。三酸化ウランは10日から100日程度かかり、金属ウランや二酸化ウラン・八酸化三ウランは不溶性なので100日以上体内に残留する。食物や水から劣化ウランを摂取した場合、小腸での吸収率が問題となる。」

ということで、劣化ウランの健康被害に関しては化学的毒性と内部被曝が重要であろうと述べています。化学毒性のところで、ウランの毒性は無機水銀に類似するとありますが、水俣病の原因となる有機水銀の毒性とは異なりますので注意。外部被曝のところに関して補足すると、皮膚の角質層は死んだ細胞でできているので、その奥にある生きた細胞まで届かなければ放射線による障害は生じないだろうということです。

次は許容量に関して。

「ウラン化合物の安全・衛生基準は、化学的および放射線毒性に基づいて設定されるべきである。ICRPの勧告によれば、一般人の被曝許容量は年1ミリシーベルト、放射線にさらされる職業に就いている人の被曝許容量は年20ミリシーベルトである。一般人の場合に相当するのは、6価のウランイオンを経口摂取した場合1500mg、金属ウランや酸化ウランを経口摂取した場合8800mg、ウランのフッ素化合物を吸入した場合133mg、三酸化ウラン粉末を吸入した場合23mg、金属ウラン・二酸化ウラン・八酸化三ウラン粉末を吸入した場合8.1mgである。また、ウランの化学毒性に関する許容量は、大部分の国際基準で標的臓器(腎臓)重量1gあたり3マイクログラムとなっている。これに相当するのは6価のウランイオンを経口摂取した場合400mg、金属ウランや酸化ウランを経口摂取した場合4000mg、ウランのフッ素化合物を吸入した場合30mg、三酸化ウランを吸入した場合230mg、金属ウラン・二酸化ウラン・八酸化三ウランを吸入した場合7400mgである。よって、経口摂取では化学毒性が、吸入では放射線毒性がより低い濃度で出現する(フッ化ウランは核燃料製造工場でしか生じないので、このさい無視する)。」
「WHOでは、一日あたりのウラン耐用量を決めている。その量は1998年には体重1kgあたり0.6マイクログラムであったが、2001年には0.5マイクログラムに引き下げられた。ドイツ軍では0.7マイクログラムとしている。アメリカでは2マイクログラムまで許容量とされている。」
「空気中の天然ウラン濃度に関しては、一般人の場合、アメリカの機関は可溶性ウラン化合物で一立方メートルあたり0.3マイクログラム、不溶性ウラン化合物で8マイクログラムと設定している。ICRPの1995年の勧告によれば、可溶性化合物で9.4マイクログラム、不溶性ウラン化合物で0.58マイクログラムが許容量とされる。劣化ウランの場合、天然ウランよりも放射能が低いので、可溶性化合物で17マイクログラム、不溶性化合物で1.05マイクログラムとなっている。」
「水に含まれるウラン濃度は、WHOにより1リットルあたり2マイクログラムまでとされている。しかし、ノルウェーなどの自然水には比較的高い濃度の天然ウランが含まれるので、この基準では厳しすぎるとの声もある。アメリカの機関は、30マイクログラムまで許容できるとしている。」

上記の許容量は、著者らが勝手に決めたわけでなく、国際機関や各国の機関で設定されたものです。ICRPは、国際放射線防護委員会の略で、放射線防護に関する勧告を行っています。がんの罹患率は、世界平均で10万人あたり2万人です。1ミリシーベルトの被曝により、がんの発生率が10万人あたり5人ふえるとされています。20ミリシーベルトでは10万人あたり100人増えます。

次は湾岸戦争における劣化ウランの使用について。

「湾岸戦争の期間中、アメリカ陸海空軍で劣化ウラン弾が使用された。陸軍は4.2kgの劣化ウランを含む105mm徹甲弾500発と5.3kgの劣化ウランを含む120mm徹甲弾9000発を、空軍は0.28kgの劣化ウランを含む30mm徹甲弾80万発を、海軍は25mm劣化ウラン弾67500発を使用しており、総使用量は300トンを超える。うち90%は30mm徹甲弾である。」
「これはA-10ウォートホッグ対地攻撃機が使用した弾薬で、長さ95mm・直径16mmの劣化ウラン弾芯を直径30mmのアルミニウム製の鞘で包んだものである。発射速度は毎分3900発で、1回に2-3秒間のバースト射撃を行い、100-150発の弾丸を500平方メートルにばらまく。目標の大きさにもよるが、命中するのはせいぜい10%にすぎない。外れ弾は約250トンに達し、場合によっては地下数メートルまで潜り込んでいる。」
「アバディーンでの試験の結果、命中すると劣化ウラン質量の17%から28%がエアロゾルになると判明している。そのうち83%は排泄率の低い金属ウランや三酸化ウラン・八酸化三ウランで、残り17%は二酸化ウランである。エアロゾル化した劣化ウラン質量の50%程度が、直径10ミクロン以下の粒子となる可能性がある。戦車から発射されて命中した劣化ウラン弾50トンと、航空機から発射されて命中した25トンのうち、10トン程度が酸化ウラン粒子となって大気中に放出されたとみられる。また、米軍ドーハ基地の火災で3両の戦車と249発の劣化ウラン弾が破壊され、465kgの酸化ウラン化合物が放出された。」

25mm劣化ウラン弾は陸軍のM-2・M-3ブラッドレイか、海兵隊のAV-8B・LAV-25から発射したと思うのですが、まあ細かいことは抜きにしましょう。戦車砲用徹甲弾が「missile」と表記されているのも気になりますが。ともかく劣化ウランのほとんどがGAU-8/Aガトリング砲から発射されたことになります。あと、イギリス軍も120mm劣化ウラン徹甲弾を使用しています。

さて、いよいよクウェートおよびイラクでのウラン濃度調査の結果に入ります。

「ウランによる環境汚染の影響は、単に土壌や水・空気中のウラン濃度測定だけでなく、放置された劣化ウラン弾から溶け出していくウラン化合物なども考慮せねばならない。最終的には、住民や従軍兵士の健康に対する影響も測らねばならない。客観的評価には、汚染地域のウラン濃度と自然界でのウラン濃度を比較したり、汚染地域のウラン濃度が許容量を超えているかどうか調べたりすることが必要となる。」
「1992年、破壊されたイラク戦車の周囲で放射能を測定したところ、大部分が戦車内にあった。少しこすれば放射性物質がはがれ落ちてくる状況であったが、戦車から数メートル離れると放射能は非常に弱くなった。1993年から土壌中のウラン濃度がクウェート大学の地質学チームにより測定開始された。「死のハイウェイ」や、ドーハなど、劣化ウランに汚染されたと予想される地域を中心にクウェート全土から83地点を選び出し、土壌を採取した。また、ペルシャ湾の海底43カ所からもサンプルを採取した。結果、ウラン濃度は土壌1g中0.3-2.5マイクログラムで、平均1.1マイクログラムであった。ちなみに世界平均では2.8マイクログラムであり、かえって少ないという結果が出た。これはクウェート国土が風で飛来した砂で覆われているため、もともとウラン含量が低いためと考えられた。ドーハで破壊された戦車の近くでは、土壌1gあたり数mgという高い濃度で劣化ウランが検出されたが、ここも数ヶ月たてば砂が吹き飛んで拡散すると考えられた。」
「調査中、土壌から劣化ウラン弾が掘り出されることはなく、50cm以上土にめり込んでいると推定された。中東の土壌条件では劣化ウランの可溶化は生じにくく、年に重量の6%程度が溶け出すと推定された。溶出した劣化ウランは地下水に流入し、井戸からくみ出されて人々の口に入り、人体を汚染する。しかし土壌からの被曝量は年に80マイクロシーベルトを超えない程度で、ほぼ影響がないとみられる。クウェートで飲料水として使用されているRawdatheinの地下水を調査した結果、ウラン濃度は1リットルあたり1.2マイクログラムで、α線の検出量はとくに増加していなかった。実際にはこの地下水に、アラビア海の海水を淡水化したものを混ぜて供給しているため、蛇口から出る水に含まれるウランは1リットルあたり0.02マイクログラムにすぎない。ウランで汚染された水で作物を育てると、生物濃縮が起こりうるが、砂漠地帯のクウェートにはそもそも畑がない。」
「ペルシャ湾岸地域では、砂漠地帯に比べて劣化ウランの化学変化が速いと推定される。1996年にクウェートの海岸沿い37カ所で土壌を検査したところ、ウラン濃度は土壌1gあたり0.75-3.5マイクログラムであった。また、ウラン235とウラン238の比を測ることで劣化ウランの汚染域を明らかにする試みも行われた。ちなみに天然ウランではウラン235/ウラン238が0.006-0.007となり、劣化ウランではもっと低くなる。こちらは全37カ所で天然ウランと同様の数値が得られた。よって、戦争終結から5年後の段階では劣化ウラン弾による沿岸地域の汚染は観測されないと結論づけられた。」
「クウェートは砂嵐が起こるので、世界でも空気中の浮遊物質濃度が高いところであり、空気1リットルあたり200マイクログラムを含んでいる。湾岸戦争では10トンの劣化ウラン微粒子が生じたと推定される。劣化ウラン弾を使用した実験で、徹甲弾に撃ち抜かれた戦車内でのウラン濃度は1立方メートルあたり数百−数千mgにも達することがわかっている。劣化ウランは比重が大きいので、微粒子であってもすぐに降下してしまい、戦車からせいぜい10m程度しか飛散しない。120mm劣化ウラン弾が命中した戦車のすぐそばにいた兵士は、ウラン1mgを吸入するとされ、200m離れていれば0.8マイクログラムにまで減少するとされる。よって、吸入の危険性が最も高いのは破壊された戦車の乗員か、その救助に当たった兵士である。米陸軍の劣化ウラン弾で誤射された戦車に乗っていた104人と、その救助に当たった30-60人の兵士を調査した報告がある。彼らは最大240mgのウランを吸入し、20-480ミリシーベルトを被曝した。腎臓への蓄積量は腎臓1gあたり0.2-4.4マイクログラムと推定された。」ドーハでの事故の際、そばにいた兵士たちも劣化ウランを吸入したが、その量は10mg以下で、線量は1ミリシーベルトを超えないとされる。偶然劣化ウランに接触した兵士たちもいるが、その場合の被曝線量はかなり低いと考えられる。」
「一般人の吸入量はさらに低いとみられるが、彼らはずっと汚染地域に住み続けるので、長期における影響が問題となる。A-10攻撃機が1回の射撃で500平米にばらまいた劣化ウラン弾のうち、10%にあたる4.5kgがエアロゾルとなって地表に散布されたと仮定すると、比重1.5の土壌1mgあたりにウラン6マイクログラムが含まれる計算となる。これが空中に舞い上がると、1立方メートルあたり約1マイクログラムの濃度となる。この空気を1時間あたり0.9立方メートル吸入したとしても、年間被曝量は1ミリシーベルトを超えない。実際、ここまで濃い濃度の劣化ウランに長期間さらされたのはドーハで勤務していた米軍兵士だけだが、彼らも1ヶ月未満しかそこで勤務していないので、年間被曝量はもっと低い。」
「1993-94年にかけ、クウェート大学のキャンパスで大気中のウラン濃度が測定された。1993年夏にはウラン濃度が1立方メートルあたり0.3ナノグラム程度であったが、冬には0.1ナノグラムにまで低下した。観察期間を通じての平均ウラン含有量は1立方メートルあたり0.25ナノグラムで、世界の他の都市と同じくらいであった。また、ウラン235と238の比は0.0055-0.007で、ほぼ天然ウランと同じであった。同時期に固形降下物中のウラン濃度も測定され、降下物1gあたり1-1.79マイクログラムと土壌とほぼ同じ値であった。こちらもウラン235と238の比は0.006-0.007で、天然ウランと同じだった。」
「以上より、クウェートに住んでいる人の吸入による被曝量は年に0.05ベクレルで、IRCPの勧告で規定されている許容量の0.2%以下となる。」
「湾岸戦争に従軍した米兵のうち、許容量以上の劣化ウランにさらされた可能性があるのは多くて160人前後である。しかし、いわゆる湾岸戦争症候群との関連を調査するため、何百人もの兵士が全身の健康チェックを受け続けている。劣化ウラン弾の破片が体内に入ってしまった16人の兵士を8年間追跡調査した研究では、腎障害をしめすデータは得られていない。また、腎障害以外でも劣化ウランが原因と見られるような症状は出ていない。白血病も観察されていない。コソボ紛争における調査で、バルカン半島に派遣された65000人のイタリア兵のうち、11人に白血病が発症した。これは白血病の一般的な発症率である1万人に1人よりも高そうに見えるが、有意差はなかった。また、原爆被爆者の調査に基づくと、白血病の罹患率が増加するのは1シーベルトという高線量を被曝してから2-5年経過した後である。」
「湾岸戦争症候群は劣化ウランの暴露のみに基づくものではない。生物兵器に対するワクチン接種、油田火災の煤煙、爆撃後に生じる化学物質などの影響も指摘されており、劣化ウランによる影響はより小さいものに思える。また、イラク市民の健康状態の悪化も、イラク南部の劣化ウラン暴露状況がクウェートにおける状況と類似すると考えられることから、劣化ウランと関連しているとは考えにくい。しかし、ウランの長期間暴露による生物学的影響は十分に分かっているわけではないので、さらなる研究の継続が必須である。」

要するに、環境中のウラン濃度はすべて許容量以内で、健康被害を与えるようなレベルには達していないということです。誤射を受けた米兵の中には許容量を超えた人もいますが、今のところ障害は出ていないようです。

最後は、結論。6項目に分けて記述してあります。

「1.劣化ウランは天然ウランよりも40%ほど放射能が低く、外部被曝はほぼ無視できる。」
「2.劣化ウランは湾岸戦争で300トン使用され、その範囲はクウェート及びイラク南部の2万平方キロメートルに及ぶ。」
「3.航空機から発射された劣化ウラン弾のうち90%は目標を外れ、地面にめり込んだ。」
「4.めりこんだ劣化ウラン弾はゆっくりと溶け出し、井戸を汚染する。しか許容量を超えない程度である。」
「5.1992-94年のクウェートにおける調査では、劣化ウランによる重大な環境汚染は認められなかった。」
「6.劣化ウラン弾は高い威力を持つので、使用国がそれを廃棄するのは困難であるようにみえる。しかし反対運動により、イギリスでは劣化ウラン弾の発射テストを一部取りやめた。」

ということで、劣化ウランは毒性を持つけれども、クウェートにおける劣化ウランは、人体に毒性を及ぼすような量には達していないという結論になりました。ただし長期経過に関しては不明な点もあるので、これからも慎重な観察が必要であるとのことです。

次回はガンの発生率など、本当に人体に対する影響がでていないのかどうか調べた論文を読む予定。
                        (2005年7月3日)


       
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劣化ウラン弾の話 その4