劣化ウラン弾の話 その5

引き続いて、湾岸戦争における劣化ウラン弾の影響についての論文です。

最初はIncidence of cancer among UK Gulf war veterans: cohort studyというタイトルで、BMJという雑誌の2003年12月13日発行通巻327号1373-77ページに載った論文です。著者はGary J Macfarlane氏ら。

まずはイントロダクションから。

「湾岸戦争に従軍したイギリス兵士の中で、体調不良を訴える者が多く見られる。その異常は、疲労感、体のこわばり、不眠、突然の気分変調、怒りっぽい、記憶力低下など、非特異的な症状である。また、湾岸戦争に従軍した兵士の中でガンの発生率が増加しているとされ、それが劣化ウランと関係しているといわれている。アメリカ兵の調査では、従軍後短期間に限れば精巣ガンの発生率が上昇しており、また1991年に限ると腫瘍(大部分は良性のものだが)の罹患者数が多かったと報告されている。しかし、ガンによる死亡率を調査した研究では、湾岸戦争従軍兵の中でとくに増加はしていなかった。」
「そこで我々は、湾岸戦争に従事したイギリス軍兵士のガン罹患率が増加しているかどうか、戦争後11年間の経過を調査した。」

発ガンは、劣化ウランの放射線毒性により生じると考えられています。放射線による発ガンは、白血病で潜伏期が2-3年、その他の固形ガンでは10-20年にもおよぶとされるので、被曝直後にがん発生率を調査してもあまり意味がありません。この研究では、11年が経過しているので、ぽつぽつ固形ガン発生の影響が出始めた頃と考えられます。

続いて方法です。湾岸戦争に従事しないと発症しない病気があれば話は簡単なのですが、そうはいかないのでなかなか面倒です。この場合、湾岸戦争に従事した人と、従事していない人を何人も調査し、ガンの発生率に差が出たかどうかを調べなければなりません。
サイコロでたとえると、中にオモリを仕込んで6の目が25%の確率で出るいかさまサイコロを破壊せずに調べるのと同じです。このとき、振る回数が多いほど結果は正確になると考えられます。4回振って1回6の目が出たからといって、いかさまサイコロだと指摘する人はいませんが、10000回振って2500回6の目が出たらかなり怪しいでしょう。しかし、「6の目は6箇所削ってあるからその分軽い。だからふつうのサイコロを振ってもそれくらい出る。」などと反論する人もいるでしょうから、そのいかさまサイコロと大きさや目の部分の削り方などを一致させた、オモリを仕込んでいないふつうのサイコロを同じ回数振って両者を比較する必要があります。これでいかさまの方が2500回、ふつうの方が1650回だったら言い逃れは難しいでしょう。これでも「たまたまだ」と言い張る人がいるかもしれませんので、このときには信頼区間の考えを導入し、「これだけの差が出る確率は何パーセントだから、いかさまでほぼ間違いない」と反撃します。
このへんの話は高校数学の確率・統計で習いますので、参考書などを調べてみてください。

では本文に移ります。

「1990年9月から1991年6月の間に湾岸地域に派遣されていた兵士(湾岸群)を対象とした。また、コントロールとして1991年1月現在、従軍していたが、湾岸戦争には派遣されていない兵士(対照群)をコントロールとした。両者は、年齢、性別、階級、部隊、軍内部での活動状況などが一致するように選び出した。最初に両群とも53462人ずつを選び出し、引っ越して継続調査ができなくなったりした人を除いた湾岸群51721人と、対照群50755人を追跡調査し、1991年4月1日から2002年6月31日の間にガンと診断された兵士の数を両者で比較した。信頼区間は95%に設定し、有意差があるかどうか判定した。」

いかさまサイコロの調べ方と同様なのがおわかりいただけましたでしょうか。湾岸群と対照群の違いを「湾岸地域に派遣されたか否か」のみとするために年齢、性別などを一致させて選んでいます。調査人数約50000人ずつというのは、この手の疫学調査ではものすごい数で、さすが軍隊は協力度が違うと感心させられます。

いよいよ結果に移ります。

「11年のフォローアップ期間中、湾岸群では270人、対照群では269人がガンと診断され、罹患率は両者に有意差はなかった。また、ガンと診断された兵士の性別、年齢、階級、配属部隊にも両者で有意差はなかった。口腔、上部消化管、下部消化管、気道系、悪性黒色腫、他の皮膚ガン、乳ガン、前立腺ガン、精巣ガン、泌尿器ガン、中枢神経系のガン、リンパ・造血系のガン、上記以外のガンに分けて比較したが、湾岸群と対照群の罹患率に有意差はなかった。」
「戦争当時の喫煙・飲酒歴が残っていた兵士が湾岸群で28518人、対照群で20829人いたので、彼らの罹患率を喫煙・飲酒量で補正して比較したが、総数および各種ガン罹患数ともに有意差はみられなかった。」
「湾岸群を、生物兵器に対するワクチンを打ったかどうか、殺虫剤を使ったかどうか、劣化ウランに暴露された可能性があるかどうか、でそれぞれ分類し、ガン罹患率を比較したが、これもやはり総数・各種ガン罹患数とも有意差はみられなかった。」

ちなみに湾岸群の方が多かったのは上部消化管のガン(対照群が6人、湾岸群が9人で発症率が1.47倍多い)や悪性黒色腫(対照群が10人、湾岸群が14人で発症率が1.38倍多い)などで、逆に少なかったのは乳ガン(対照群10人、湾岸群6人で発症率が0.61倍)や下部消化管のガン(対照群18人、湾岸群13人で0.71倍)などです。これらはすべて95%信頼区間の中に入ってしまうので、「有意差なし」との判断になりました。要するに「たまたま多かったり少なかったりしただけで、湾岸地域に行ったからといってガン発症率は変化しない」という確率が95%ということです。悪性黒色腫に関しては紫外線の影響が大きいような気がしますが、派遣されたのはそんなに長期ではないし、有意差もないのでなんとも言えません。
飲酒と喫煙で補正した場合、湾岸群の方が多かったのはリンパ・造血系のガン(対照群が11人、湾岸群が24人で発症率が1.6倍多い)や悪性黒色腫(対照群5人、湾岸群10人で発症率が1.5倍多い)などで、逆に少なかったのは気道系のガン(対照群が5人、湾岸群が3人で発症率が0.41倍)や口腔ガン(対照群が5人、湾岸群が4人で発症率が0.58倍)などでした。これらも有意差なし。ちなみにこちらは対照群20829人と湾岸群28518人の中での発症数です。
ワクチン接種群は非接種群に比べ発症率が1.08倍、劣化ウラン暴露群は非暴露群に比べ発症率が0.63倍でした。これらも有意差なしです。

最後に、考察。

「湾岸戦争に派遣されたイギリス兵は、派遣されていない兵士に比べてガンの発症率が多いということはない。ただし、喫煙、飲酒、ワクチン接種、殺虫剤使用、劣化ウラン暴露に関しては自己申告であり、客観的な証拠がないため、誤差が生じる可能性がある。また、発ガンには長い期間が必要であるため、このような研究を継続して行っていくことが必要である。」

この研究の欠点は、補正を加えたデータについて、尿中ウラン濃度などの客観的証拠がないということです。自己申告なので、本当にウランなどに暴露したのかしていないのか不明です。湾岸地域に派遣されていない兵士との間で有意差がないので、よしとしたのかもしれませんが。
本研究で、湾岸派遣兵とそれ以外の兵士の間にはガンの発生率に大きな差がないことが分かりました。本当はイラク南部及びクウェート住民の発ガン率の調査結果もあると良いのですが、現在検索中です。


続いて、生殖・発達に対して劣化ウランが及ぼす影響についての論文をいくつか。

まずはHealth effects and biological monitoring results of Gulf War veterans exposed depleted uranium.というタイトルの論文からです。雑誌はMil Medの2002年2月号、通巻167巻Suppl2、123-124ページです。著者はMcDiarmid MA氏らで、アメリカのDepartment of Veterans Affairs Medical Centerの所属です。これはabstractのみです。

「湾岸戦争に派遣された兵士のうち、何人かは体内に劣化ウラン弾の破片が食い込んだままとなっており、これによる長期経過後の健康への影響が懸念される。我々は、被弾した29人と被弾していない29人の湾岸戦争従軍兵士を医学的にフォローアップした。戦争終了から7年経った時点で、被弾していない人の尿中ウラン濃度は1グラムクレアチニンあたり0.01-0.05マイクログラムであったが、被弾した人は0.01-30.7ミリグラムと高値であった。これは食い込んだ破片から溶け出したウランが血中に溶け込み続けていることを示している。この時点で腎臓障害はみられなかったが、生殖系や中枢神経系に微妙な影響がみられた。」

その「微妙な影響」がどの程度かは書いておらず、おそらく「有意差が出ない程度」という意味だとは思われますが、全文を入手できなかったので詳細は不明です。しかし体内に劣化ウラン弾の破片が存在する場合、長期にわたり全身がウランに暴露され続けることになるのは間違いありません。もしも許容量を超えるような濃度で腎臓に蓄積すれば、当然ながら腎障害が起こる危険があります。幸いまだ障害は出ていないようですが。
あと、「1グラムクレアチニンあたり」というのは、およそ「一日あたり」の排泄量と考えてください。クレアチニンというのは筋肉から出る老廃物で、成人男性は尿中に1日1グラム排泄されます。筋肉の少ない女性だと0.8グラムくらい、逆に鍛えている人だと1グラム以上排泄されますので、あくまでも目安でしかありませんが。

次はA review of the effects of uranium and depleted uranium exposure on reproduction and fetal development.というタイトルで、Toxicol Ind Healthという雑誌の2001年6月号、通巻17巻180-191ページに載った論文です。著者はArfsten DP氏らで、アメリカのNaval Health Research Center Detachment-Toxicologyの所属です。これもabstractのみです。

「劣化ウランは、徹甲弾、装甲材、バラストやカウンターウェイトなどとして軍民問わず使用されている。湾岸戦争やコソボ紛争において、劣化ウラン弾粉末やエアロゾルによる急性のウラン被曝、弾片被弾による慢性のウラン被曝が生じた。劣化ウランは天然ウランの60%の放射能を持ち、また鉛の1.6倍の比重を持つ重金属であり、体内に年余にわたり残存し、ゆっくりと溶出する。劣化ウランにさらされた湾岸戦争従軍兵士の尿からは、10年が経過しても高い濃度のウランが検出されている。ラットでのデータによると、劣化ウランは精巣、骨、腎臓、脳に蓄積するとされる。培養細胞などを使用した実験で、劣化ウランの遺伝子毒性、変異原性が指摘されており、最近の研究ではラットの組織中に劣化ウランを置いた場合にガンが生じると報告されている。劣化ウランの経口摂取・吸入が及ぼす生殖系への影響や、奇形原性に関してはデータが少ない。劣化ウラン弾片が食い込んだ場合の生殖系への影響に関しては、データが全くない。」

劣化ウランによる先天性障害に関しては、マスコミではかなり騒がれていますが、医学論文としてしっかりとまとめたものは少ないようです。

よって、次はウランと生殖・発達障害について記述したreviewを読むことにします。これは全文が手に入りました。
タイトルは、Reproductive and developmental toxicity of natural and depleted uranium: a review. で、Reproductive Toxicology誌の2001年発行通巻15巻603-609ページに載っています。著者はスペインのRovira i Virgili大学医学部、毒性・環境健康学教室所属のJose L. Domingo氏。

まずはイントロダクションですが、今までに述べられた天然ウラン・劣化ウランの毒性について繰り返しているので、簡単にまとめます。ウランには化学毒性として腎毒性があること、放射能による毒性もあること、ただし湾岸戦争から10年(本論文執筆当時)しか経っておらず、放射能被曝によるガン発生率増加を論じるには時期尚早であることなどが書かれています。

ついで、ウランの生殖器系に対する毒性を述べています。以下、「ウラン」は「天然ウラン」を指します。

「ウランの生殖器系に対する毒性に関する情報は、きわめて少ないが、いままでの報告によれば、その大部分は化学的毒性が担っているとされ、放射線も部分的に関与しているといわれる。2フッ化2酸化ウラン235をラットの精巣に注入したところ、生殖障害が起き、注入濃度が高いほど、精子のDNAの切断が増加していたという報告がある。また、ラット胎児の筋骨格系の先天性障害も増加していた。以前から、フッ化ウランをマウスの精巣に注入すると容量依存的に精祖細胞の染色体異常が増加するという報告がみられている。」
「雄のラットに64日間にわたり酢酸ウランを経口投与する実験では、投与終了後に4日間雌ラットと同居させたときの妊娠率が正常では81%あったのに対し、投与群では25-35%に低下した。投与量は10・20・40・80mg/kg/dayの4つに分けていたが、とくに容量依存性はなかった。ただし体重は80mg/kg/day投与のラットで非投与群より減少していた。精子の機能や数はどれも低下していなかった。精巣の組織を顕微鏡で比較したところ、80mg/kg/day投与群ではライディッヒ細胞の空胞化がみられたが、精細管など他の構造にはどれも変化がなかった。妊娠率の低下は、性欲の低下に原因があるのかもしれない。また、雄のラットに、酢酸ウランを5・10・25mg/kg/day経口投与し、雌のラットに同量を14日間投与して両者をカップリングした実験では、妊娠率はどれも変わらなかったが、25mg/kg/day投与群においてラット胎児死亡率が増加した。以上から、10mg/kg/day未満のウラン暴露では、妊娠率は低下するが胎児毒性はないと考えられる。マウスにおけるウランの経口摂取による半致死量は242mg/kgと報告されている。」
「上記の結果は、長期のウラン暴露がラットの雄の生殖機能に影響を与えることを示している。また、Uranyl nitrate dexahydrateをラットに投与した実験では、0.07mg/kg/dayの投与量で16週間飼育したところ、精巣の重量が減り、精祖細胞の壊死が生じたという報告がある。」
「劣化ウランの生殖毒性に関する報告として、劣化ウランの小片を動物の筋肉内に埋め込んだ実験がある。18ヶ月後に調べたところ、腎臓や骨だけでなく、精巣、脳、リンパ節にも蓄積がみられた。これらの臓器に対して、蓄積した劣化ウランが毒性を発揮することはありうる。」
「最近になっても、劣化ウランを含め、ウランによるヒトの生殖機能への影響には関心が薄い。24時間暴露のデータなど2つがあるのみで、これらの報告ではとくに影響がみられなかったため、追報告すら行われていないのが現状である。近年、ウラン鉱夫にホルモン値の変化や、染色体の不安定性がみられることが報告された。」

ラットやマウスの報告ばかりで、ヒトに関する報告がないと著者らは嘆いています。ラットの実験に関しても、劣化ウラン弾微粉末で問題になるのは主に酸化ウランなのですが、化合物が違うので毒性がそのまま比較できず、参考程度にしかなりません。ウラン鉱山労働者に関しても、ウランのせいなのか、ウランが崩壊して生じるラジウムなどが原因なのか、他の労働環境などが原因なのかは不明です。

続いて、母体および胎児における影響について。

「MEDLINEで検索したところ、ウランによる胎児毒性に関して研究した論文は、我々が以前に出した2つしかない。」
「マウスに5、10、25、50mg/kg/dayの酢酸ウランを妊娠6-15日に経口投与する実験では、いずれの濃度でも母マウスの体重増加が鈍り、食事摂取量が減った。胎児死亡の増加はみられなかったが、胎児の体重、体長は減少し、成長障害がみられた。口蓋裂、血管腫、二分胸骨、頭部・尾部・四肢の骨化不全などの先天性障害もみられた(ウラン投与群で発症率65-100%、非投与群で22%)。母体のストレスにより生じる先天性障害もあるが、それとは別に生じたとみられる障害もあった。」
「酢酸ウランをマウスに皮下投与する実験も行った。0.5、1、2mg/kg/dayの酢酸ウランを妊娠6-15日に皮下投与したところ、用量依存的に母体死亡が増加し、体重増加の鈍化もみられた。また、胎芽毒性もみられ、1・2mg/kg/day投与では胎児体重の減少や骨化不全がみられた(50%、100%。非投与群では9%)。口蓋裂、二分胸椎などの先天性障害も発生した。これらの先天性障害は母体のストレスとは独立しており、ウランの直接の胎児毒性による。」
「マウスの妊娠の何日目でウランを投与すると影響がもっとも強いかを調査したところ、妊娠10日目がもっとも影響の強い時期であると判明した。」
「ウランイオンの細胞・遺伝子毒性を調べるため、ハムスターの卵細胞に0.01-0.3Mのウランイオンを含む培地を投与する実験を行った。その結果、染色体の異常や細胞増殖の鈍化、細胞生活力の低下などがみられ、ウランイオンは細胞・遺伝子毒性を持つと考えられた。また、硝酸ウランをマウス胎児細胞に加える実験でも同様の結果が得られた。」
「劣化ウランを使用した実験は、短いabstractしか発表されていない。異なる量(5種類。具体的な量は不明)の劣化ウランをそれぞれ雌のラットに埋め込んだところ、量に応じて母体腎、胎盤、胎児含有ウラン量が増加したが、母体にも胎児にも毒性はみられなかった。母体の体重増加が鈍ったり、食事や水の摂取量が減ったり、腎臓に異常な所見がみられたり、胎児の体長・体重が減少したり、雄雌の比が変化したり、ということはなかった。」
「ウラン鉱山で働くなどしてウランに暴露された人での疫学調査がある。Navajosで13329の出生を調べたところ、母親がウラン鉱の鉱石捨て場近くに住んでいた場合に流産などが多いということが分かったが、ウランとの間に相関は薄かった。」

これまたネズミの実験ばかりです。劣化ウランを使用した実験もあるようですが、abstractのみで詳細が不明で、どれくらいの量を埋め込んだのかも分かりません。上記から分かるのは、マウスに酢酸ウランを妊娠6-15日に5mg/kg/day以上経口摂取するか、0.5mg/kg/day以上皮下投与すると、母体や胎児に悪影響が出る、ということです。あと、Mはmol/lという単位のことです。
ヒトでの疫学研究では、ウランと胎児毒性の相関関係は薄いようです。ただ、論文がひとつしかないので、これだけで結論を出すのは早いでしょう。

次は、ウランによる毒性を防止する物質の話が出ています。

「金属イオンの毒性を中和するため、キレート剤が使用される。ウランにおいては、Tiron(4,5ジヒドロキシベンゼン-1,3ジスルホン酸ナドリウム)、DTPA(ジエチレントリアミンペンタ酢酸)が挙げられ、ラットやマウスの実験では、前者の方が効果が高い。酢酸ウランを4mg/kgの濃度で妊娠10日目のマウスに投与し、その直後、24時間後、48時間後、72時間後に1500mg/kgのTironを投与したところ、母体の体重増加の鈍化が予防できた。しかし胎児の致命率は変わらなかった。Tironはバナジウム酸塩によるマウス胎児毒性を中和できるが、ウランに関しては不十分であった。」

中和剤も決定的なものはないようで。

最後に周産期のウラン暴露について。

「ほ乳類における周産期および産後のウラン暴露についての論文は、いままで2つしか出ていない(いずれも本論文の著者らが出したもの)。雄のマウスに酢酸ウランを5・10・25mg/kg/dayで60日間経口投与し、雌には14日間経口投与して妊娠させ、雌にはそのままの量で産後も与え続けた。出産時、出産4日後、21日後にさまざまなデータを比較したところ、ウラン投与により死産マウスが増加し、4日目までの死亡数も増加した。子マウスの成長もウラン投与群で低下した。」
「0.05・0.5・5・50mg/kg/dayの酢酸ウランを妊娠13日目から産後21日目まで投与した実験では、5mg/kg/dayまではとくに影響がなかったが、50mg/kg/day投与群では産後21日目での子マウスの体長、生活力、授乳量が低下した。」
「劣化ウランで周産期の影響を調査した研究はない。」

出生後の子マウスには乳汁経由でウランが移行しています。こちらは多めに投与しないと子にまで影響は出ないようです。

まとめ。

「UNSCEAR(The United Nations Scientific Committee on the Effects of Atomic Radiation)は、飲料水中のウラン濃度を化学毒性に基づいて制限しており、その量は1リットルあたり100マイクログラムである。制限すれすれの飲料水を体重70kgのヒトが2リットル飲むとすると、ウラン量は1日200マイクログラムで、酢酸ウラン換算では0.005mg/kg/dayである。これは子マウスの成長に悪影響を与える量の1000分の1以下、胎児の発達に悪影響を与える量の100分の1である。ただしウラン鉱山などの近くでは、大量のウランが溶け出していることも考えられるので、個々のガイダンスが必要である。」
「劣化ウランによる胎児毒性に関しては、まだ十分な研究が行われていない。また、ウランに関してもマウスへの投与実験がほとんどで、他のほ乳類における実験結果は興味深いものとなるだろう。」

ということで、ウランを投与すると胎児に影響が出るであろうことはマウスの実験で分かったのですが、その投与量は非常に多量です。制限の10倍のウランを含む水を飲んで体重70kgのヒトの胎児に影響が出るには、毎日20リットルを飲まなければなりませんが、無理です。
また、肝心の劣化ウランに関する毒性がほとんど研究されていないというのがイマイチ。これからの研究待ちといったところです。


ということで、こちらもイラクやクウェートにおける先天性障害の発生率変化を見たいところですが、これまた論文を検索中。アラビア語の雑誌はMEDLINEに載っていないのと、アメリカ・ヨーロッパの研究者がわざわざ中東に行かない(フセイン政権時代のイラクには行かないでしょうし、今のイラクにはもっと行かない)ので、論文が出てくるかどうか。
よって、次回はヨーロッパで行われたユーゴスラビア紛争・コソボ紛争での劣化ウラン弾の影響に関する論文を読んでいきたいと思います。          (2005年7月24日)


        
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