劣化ウラン弾の話 その13

要旨があと3つ続きます。すべて肺関連。

「Particulate Depleted Uranium Is Cytotoxic and Clastogenic to Human Lung Cells.

劣化ウラン粒子はヒト肺細胞への細胞毒性および染色体構造異常原性を持つ

Chem Res Toxicol. 2007 May 21;20(5):815-820.
Wise SS, et, al
Wise Laboratory of Environmental and Genetic Toxicology, University of Southern Maine

劣化ウランは、弾丸や装甲として使用されており、兵士や非戦闘員への曝露が潜在的に広がりつつある。劣化ウランはガン原性が疑われており、肺では気管支の細胞に作用する可能性がある。しかし、これまでヒト気管支細胞に対する劣化ウランの研究はあまり行われてこなかった。そこで我々は、不溶性の劣化ウラン粒子および可溶性の劣化ウランをヒト気管支由来の繊維芽細胞(WTHBF-6)に曝露させ、細胞毒性および染色体構造異常を調べた。不溶性のウラン粒子としては3酸化ウラン、可溶性の劣化ウラン塩としては酢酸ウランをそれぞれ使用した。24時間の曝露の後、3酸化ウランおよび酢酸ウランは濃度依存性の細胞毒性を発揮した。0.10.515マイクログラム/平方センチの3酸化ウランに曝露させたところ、細胞生存率は99%57%32%1%であった。100200400800マイクロモーラーの酢酸ウランでは、細胞生存率は98%92%70%56%だった。72時間の慢性曝露では、細胞毒性の程度が増加した。00.515マイクログラム/平方センチの3酸化ウランを曝露させたところ、それぞれ561015%の分裂中期の細胞が染色体傷害を示していた。酢酸ウランでは染色体傷害はみられなかった。3酸化ウランの曝露を48時間または72時間に増やすと、3酸化ウランでは染色体傷害のわずかな増加が見られたが、酢酸ウランでは変化がなかった。」


ウランの肺に対する毒性はこれまでいくつもの研究がなされていますが、気管支細胞に対する実験はあまり行われてこなかったということで、不溶性の3酸化ウランと可溶性の酢酸ウランで実験を行っています。両者とも細胞毒性が見られましたが、染色体毒性は不溶性ウランのみに見られたとのこと。機序などをさらに突き詰めていけば、肺毒性に関してさらなる知見が得られるかもしれません。



「Proteomic analysis of the response of human lung cells to uranium.
ヒト肺細胞の劣化ウランによる反応のタンパク質解析

Proteomics. 2005 Nov;5(17):4568-80.
Malard V, et,al.
Service de Biochimie post-génomique et Toxicologie Nucléaire

ウラン、特に劣化ウランの工業的な使用により、人の健康にどのような化学的な影響があるかを解析する必要性が指摘されている。タンパク質解析によるアプローチにより、ウランがヒト肺細胞系培養細胞A549に与える影響を評価した。A549細胞の81の主要蛋白に関連する87のスポットを同定し、2次元マップを構成した。ウランに曝露させたところ、サイトケラチン8およびサイトケラチン18に関連する14のスポットと、ペロキシレドキシン1に関連する1つのスポットを含む18スポットの発現に異常が認められた。我々はサイトケラチン開裂に関与するいくつかの仮説を証明し、キャスパーゼまたはカルパイン活性によるものでないことが判明した。さらに我々はこのフラグメントが抗ユビキチン抗体(KM691)で認識されることを突き止めた。これらの結果から、ウランをヒト肺細胞に曝露させた場合、サイトケラチンのユビキチン化経路の調節またはプロテアソーム-ユビキチンシステムの機能不全が生じることが分かった。」


ウランにより、肺細胞が作る蛋白質の産生量に異常が見られるかどうかを解析した実験。サイトケラチンという蛋白質が異常を来しており、原因がユビキチン化にあることが分かったとのことです。分解される予定の蛋白質にはユビキチンという物質により目印が付けられるのですが、これがうまくいかないことにより、蛋白質の量に異常が出ているとしています。分解されるはずの蛋白質が分解されないと、余計な作用を起こし続けたり、蓄積して他の物質の働きを妨げたりしますので、サイトケラチンだけでなく、発ガンなどに関わるような他の蛋白質の発現に異常が起きていないかどうか、興味のあるところです。



「Uranium induces oxidative stress in lung epithelial cells.
ウランは肺上皮細胞に酸化ストレスを誘発する

Arch Toxicol. 2007 Jun;81(6):389-95.
Periyakaruppan A, et, al.
Molecular Neurotoxicology Laboratory/Proteomics Core, Department of Biology

ウラン化合物は、核燃料サイクル、対戦車兵器、戦車装甲などとして広く使用されており、セラミックやガラスに色を付ける色素剤としても使用されている。消費したウラン合金の効果的なマネージメントが、ウラン曝露による一般人への健康被害を避ける上で必要となる。ウラン曝露に関連する健康リスクは、腎疾患や呼吸器疾患を含む。それに加え、いくつもの論文で、ウランや劣化ウランがDNA障害を引き起こしたり、変異原性を持っていたり、ガンや神経系の欠損を誘発したりするということが報告されている。本研究では、ウラニウムの毒性をラットの肺上皮細胞で評価した。結果、ウランがラットの肺上皮に重大な酸化ストレスを誘発し、細胞の抗酸化潜在能力に付随する疾患を引き起こした。ラットの肺上皮細胞にウランを曝露させ、72時間培養したところ、細胞増殖が減少した。その原因は、ウラン存在下での総グルタチオンおよび総スーパーオキサイドディスミューターゼ量の喪失であった。以上より、ウランによって酸化ストレスに対する抗酸化システム反応が効力を失うことが示された。」


ラットの肺上皮細胞を使用し、ウランによる酸化ストレスの状態を調べた実験。酸化ストレスはDNA異常から細胞死や発ガンを引き起こします。この実験では、ウラン曝露後72時間培養した結果、酸化ストレスから細胞を守る物質の量が減り、その結果細胞増殖能力が阻害されたとのこと。より長期間培養すれば、ガン原性を証明できるかもしれません。更なる研究が待たれるところです。



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