劣化ウラン弾の話 その14-2
引き続き要旨。
「Evaluation of the effect of implanted depleted uranium (DU) on adult rat
behavior and toxicological endpoints.
成体ラットの行動および毒性学的終端に対する劣化ウラン埋め込みの影響の評価
Arfsten
DP, et, al.
J Toxicol Environ Health A.
2007 Dec;70(23):1995-2010.
Navy Drug Screening Laboratory, Naval Air Station, Jacksonville, Florida
2002年、海軍健康調査センター毒性学局は、外科的に劣化ウランペレットを埋め込むことで、成体ラットの健康および繁殖がどのように影響を受けるか決定する研究を開始した。この報告では、成体ラットの行動および健康における劣化ウラン埋め込みの影響を記述している。生後8週の成体SDラットに、1×2mm大の劣化ウランペレットを0・4・8・12・20個埋め込んだ。ラットでの20個の埋め込みというのは、体重70kg(154ポンド)の人間に例えれば、0.22kg(0.5ポンド)の埋め込みに相当する。対照として、タンタルペレットを12・20個埋め込んだものも作成した。実験動物は、移植後150日間もしくは2年間のうち20%の期間飼育した。尿中ウラン濃度は、埋め込んだ劣化ウランペレットの数値に相関しており、埋め込まれたペレットから体内への劣化ウランの移行を示していた。3匹の雄と4匹の雌がテスト中に死亡したが、劣化ウラン移植とは関連のない死亡であった。行動テストでは、劣化ウラン移植に関連する神経行動学的混乱の確たる証拠は得られなかった。ウランはウラン蓄積器官(骨、歯、腎臓)として知られている組織へ移動したが、ウラン濃度はそれぞれの群で相当異なっており、予想されるような量反応パターンには当てはまらなかった。血液生化学データは、SDラットの正常値におさまっていた。しかし、アラニンアミノトランスフェレース測定において、20個の劣化ウランペレットを埋め込んだラットは、外科手術のみで埋め込みをしなかったラットに比べて有意に低い値を示した。だがタンタルペレットのみ埋め込んだラットと比較すると、有意差はなかった。リン酸測定では、20個の劣化ウランペレットを埋め込んだラットが、外科手術のみおよびタンタルペレットのみ埋め込みのラットよりも有意に低い値を示した。単球の割合は、20個の劣化ウランペレットを埋め込んだラットで外科手術のみのものよりも高値を示したが、20個のタンタルペレットを埋め込んだラットとは差がなかった。平均血小板値は、劣化ウランペレット20個を埋め込んだラットで外科手術のみのラットよりも低い値を示したが、20個のタンタルペレットを埋め込んだラットとは差がなかった。剖検では劣化ウラン埋め込みラットの組織に明らかな異常は発見されず、タンタル埋め込みラットおよび劣化ウラン埋め込みラットの間で臓器重量に差はなかった。外科手術のみ、タンタル20個埋め込み、劣化ウラン20個埋め込みのラットの間で主要組織の組織学的分析における違いは観察されなかった。本研究の発見は、20個の劣化ウランペレットを成体ラットに埋め込んで150日経っても健康および神経学的行動様式に有意な悪影響を示さないということを示している。しかし、劣化ウラン曝露に関連する潜在的な健康への影響を示すデータの本体は、さらに高用量の劣化ウラン埋め込みおよびさらに長期間の調査を経て保証される。」
劣化ウランのペレットを外科的にラットの体内に埋め込み、各種生体データや行動データを検討した実験。体重70kgのヒト換算で最大220gのウランを埋め込んだとのことです。結果、尿中ウラン濃度は埋め込み量との間に比例関係が見られましたが、骨や歯、腎臓ではウランが蓄積したものの埋め込み量との間に相関関係はなく、対照としてタンタルを埋め込んだラットとの間に生体データや行動データにおいて有意な差は生じなかったとのこと。150日間でのデータということで、より長期・大量埋め込みでの結果を参考にする必要があるとまとめています。投与経路が体内埋め込みなので、誤射を受けて破片が残っている兵士にとって参考となるデータです。腸管摂取や吸入摂取に関しても、これくらい気合いの入った長期実験が望まれるところです。
「In vivo effects of chronic contamination with depleted uranium on vitamin
D3 metabolism in rat.
ラットにおけるビタミンD3代謝の劣化ウラン慢性曝露による影響
Biochim Biophys Acta. 2007
Feb;1770(2):266-72. Epub 2006 Oct 19.
Tissandié
E, et al.
Institute for Radiological Protection and
Nuclear Safety, Radiological Protection and Human health Division, Radiobiology
and Epidemiology Department, Laboratory of Experimental Toxicology
今日の社会における劣化ウランの幅広い使用は、これに曝露する人々の増加の原因ともなっている。本研究の目的は、劣化ウランに慢性的に曝露した際、ミネラルや骨のホメオスターシスに必至なビタミンD3の代謝にどんな影響がでるかを調べることである。ラットに9ヶ月にわたり1リットルあたり40mgの劣化ウランを含む水を与えた(1日あたり1mg相当)。この量は、フィンランドで自然に摂取される最高値の2倍である。劣化ウランに曝露されたラットは、活性化ビタミンD(1,25(OH)(2)D(3))の血漿濃度が著明に減少した。腎臓では、cyp24a1の遺伝子発現が減少した。また、ビタミンDの標的遺伝子であるecac1、cabp-d28k、ncx-1など、腎臓でカルシウムの運搬にかかわる蛋白のメッセンジャーRNAも低下していた。脳でもcyp27a1のメッセンジャーRNA低下が観測された。本研究は、劣化ウランがビタミンDの活性化体である1.25(OH)(2)D(3)の濃度や、ビタミンD受容体の発現に影響を及ぼし、その結果、カルシウムのホメオスターシスに関与するcyp24a1遺伝子やビタミンDの標的遺伝子の発現も修飾することを示した初の研究である。」
こちらは劣化ウランとビタミンDに関する論文で、前ページの最後で紹介したビタミンDに関する論文と同じ著者によるもので、9ヶ月の慢性曝露における研究結果となっています。こちらでもビタミンDの代謝に関連する酵素や標的遺伝子の発現に影響が及んでいることが示されました。引き続き、実際の骨がどうなっているかなどの研究が期待されます。
「Leukemic transformation of hematopoietic cells in mice internally exposed
to depleted uranium.
劣化ウランに内部曝露したマウスの造血系幹細胞における白血病形質転化
Mol Cell Biochem. 2005
Nov;279(1-2):97-104.
Miller AC, et, al
Applied Cellular Radiobiology Department,
Armed Forces Radiobiology Research
劣化ウランは軍で使用されている重金属である。紛争において、アメリカ軍の兵士が劣化ウラン弾の破片により負傷した。劣化ウラン破片による健康への影響については不明であるが、以前の我々の研究で、劣化ウランがヒト骨芽細胞に対して腫瘍性の形質転化能を示すことを明らかにした。これは、劣化ウランが培養ヒト細胞に対して遺伝子毒性および変異原性を持つことの証明である。内在する劣化ウランは、アルファ線および重金属としての毒性から、発ガンのリスクとなりうる。このリスクについて詳細を調べるため、我々は白血病モデルを作ることにした。GM-CSFまたはIL-3の活性化に依存する齧歯類造血幹細胞(FDC-P1)をマウスに注射し、骨髄性白血病モデルを製作した。これらの細胞は不死化してあるが、マウスに皮下注射しただけではガンを起こさない。静脈にFDC-P1細胞を注射したところ、何もしないDBA/2マウスでは12%に白血病が発症したが、劣化ウランを埋め込んだDBA/2マウスでは76%にFDC-P1由来の白血病が発症した。白血病細胞は、骨髄、脾臓、リンパ節からも検出され、FDC-P1細胞が形質転化を起こしたことが示された。腎臓、脾臓、骨髄、筋肉、尿中のウラン濃度は、白血病が発症する前から上昇していた。これらの結果から、劣化ウランが生体内環境を変化させ、動物モデルに白血病を引き起こしたことが推察された。」
劣化ウランの変異原性を調べた実験。劣化ウランを埋め込んだマウスにFDC-P1という細胞を人為的に注射したところ、何もしないマウスに比べて高率で白血病を発症したとのことです。癌のもとになる細胞を人為的に注射しているため、劣化ウランを人間の体内に埋め込んだとしても同じく白血病を発症するとは限りませんが、劣化ウランによる変異原性に関して証明したもので、機序などについてさらに研究することにより、劣化ウランに関するさらなる情報が得られると思われます。
「Modifications of inflammatory pathways in rat intestine following chronic ingestion of depleted uranium.
劣化ウラン慢性注入後のラット小腸免疫系修飾
Dublineau
I, et, al.
Toxicol Sci. 2007
Aug;98(2):458-68.
IRSN, Direction de la RadioProtection de
l'Homme, Service de Radiobiologie et d'Epidémiologie, Laboratoire de
Radiotoxicologie expérimentale
劣化ウランの飛散による環境汚染は、局所の人口に劣化ウラン慢性摂取を引き起こす。本研究の目的は、劣化ウランの少量慢性注入が、ウランに最初に曝露する小腸において免疫反応を引き起こすかどうかを調べることである。ラットに3・6・9ヶ月にわたり40mg/lのウラン含有水を与えた。小腸のプロスタグランジン、ヒスタミン、サイトカイン、一酸化窒素経路などの各種パラメーターを検査した。プロスタグランジン系では、6ヶ月以上の投与でサイクロオキシジェネース2型の遺伝子発現が2倍に上昇していたが、プロスタグランジンの値は変化がなかった。同じ時点で、ヒスタミン量は変わらなかったが、肥満細胞の数は減っていた。サイトカインの検査では、6ヶ月以上の投与でIL-1βおよびIL-10の遺伝子発現が上昇し、CCL-2のメッセンジャーRNA量が減少していた。この変化は、マクロファージ密度の減少を伴っていた。劣化ウランの反対の効果として、好中球を3ヶ月後に1.7倍、9ヶ月後に3倍に誘導した。一酸化窒素系の結果は、6ヶ月以上の投与で合成系を抑制する(内皮性一酸化窒素合成酵素のメッセンジャーRNA減少、誘導性一酸化窒素合成活性の減少、NO(“)(-)/NO(3)(-)の減少)というものであった。まとめると、本研究では劣化ウラン慢性投与による投与時間依存性の免疫系修飾が観察され、とくに免疫細胞系に顕著であった。劣化ウラン汚染の究極の効果は、生体防御メカニズムの抑制や、過剰感受性の誘導であるといえよう。それゆえに抗原経口摂取に対する小腸の反応に関する真の結果を決定するためのさらなる研究が必要である。」
こちらは劣化ウラン長期投与による小腸への影響を調べたもので、主に免疫系への影響を探っています。異物を除去するマクロファージや好中球といった白血球系の細胞に変化が見られており、小腸免疫系への影響を示唆するものです。
「Short-term effects of depleted uranium on immune status in rat intestine.
ラット腸管の免疫状態に対する劣化ウランの短期的影響
J Toxicol Environ Health A.
2006 Sep;69(17):1613-28.
Dublineau
I, et, al.
Institut de Radioprotection et de Sûreté
Nucléaire
経口摂取では、消化管(小腸管腔)が劣化ウランに曝露される最初の生物学的システムになる。しかし、小腸の免疫状態やバリア機能が劣化ウラン曝露により生物学的にどのような影響を受けるかを研究した報告は少ない。本研究の目的は、劣化ウランの経口摂取が小腸の腸管免疫系の変化を引き起こすかどうか調べることである。ラットの204mg/kg体重の劣化ウランを経口投与し、一日後および三日後に実験を行った。サイトカインやケモカインの遺伝子及び蛋白発現など免疫状態の各種パラメータや、免疫細胞の局在や密度などを小腸に於いて測定した。それに加え、小腸の劣化ウランによる総合的な毒性を調べるため、組織学的な検討を行い、増殖率、分化パターン、アポトーシス過程などを調べた。まず、劣化ウランは小腸細胞の増殖、分化、アポトーシスなどには影響を与えず、小腸に対する毒性は持っていないことがわかった。小腸の免疫に関しては、ケモカインの産生およびサイトカインの発現に変化を及ぼすことが判明した。MCP-1蛋白の産生が曝露1日後に消失し、3日後にはIFNγの遺伝子発現の増加がFASリガンドのメッセンジャーRNA量の増加と共に観察され、アポトーシス経路の活性化が考えられたが、実際にアポトーシスを起こしている細胞は3日目の時点では見られなかった。好中球、ヘルパーTリンパ球、キラーTリンパ球の密度と分布に変化はなかった。結論として、劣化ウランは急性曝露では小腸に毒性をもたらさないことが分かった。また、劣化ウランはサイトカインおよびケモカインの小腸における発現を修飾することがわかった。より少ない量で、また慢性曝露でどのような影響をもたらすかに関しては、さらなる研究を要するところである。」
これは上の論文と同じ著者による短期の実験で、投与3日後までの段階では免疫状態に変化を及ぼさなかったとのこと。小腸では慢性的な摂取による障害が問題となるようです。
「Short-term hepatic effects of depleted uranium on xenobiotic and bile
acid metabolizing cytochrome P450 enzymes in the rat.
ラットの外来異物および胆汁酸の代謝に関与するP450酵素に対する劣化ウランの短期的な肝臓への影響
Arch Toxicol. 2006
Apr;80(4):187-95.
Guéguen Y, et.al.
Institut de Radioprotection et de Sûreté
Nucléaire, Direction de la RadioProtection de l'Homme, Service de Radiobiologie
et d'Epidémiologie
ウランの毒性は、腎臓、骨、中枢神経系、肝臓などさまざまな臓器に及ぶことが示されている。しかし、肝臓の重要な代謝機能に関するウラン汚染の生物学的影響に関しては、あまり研究が行われていない。そこで、ラットの肝臓でコレステロールや外来異物の代謝に関与するチトクロームP450(CYP)酵素に対する影響を調べることにした。SDラットに対する劣化ウランの影響を、暴露後1日目および3日目に測定した。また、肝臓及び腎臓機能を反映する生化学検査を実施した。劣化ウランは胆汁酸CYP活性に影響を与えた。血中7αヒドロキシコレステロールは3日目に52%減少したが、1日目に5倍になった肝臓ミクロソームのCYP7A1活性およびミトコンドリアのCYP27A1活性は変化しなかった。脂質代謝に関与する核内受容体(FXR、LXR)の遺伝子発現も変化していたが、PPARαのメッセンジャーRNAレベルは変化していなかった。投与3日後に外来異物代謝に関与するCYP3AのメッセンジャーRNAレベルが上昇しており、これはCYP3A活性が1日目に低下したことに対するフィードバックであると考えられた。CARのメッセンジャーRNAレベルは1日目と比較して3倍に上昇しており、同様のフィードバックが行われたと考えられるが、PXRのメッセンジャーRNAレベルは不変であった。これらの結果から、高濃度の劣化ウランは、CYP酵素や核内受容体を修飾し、肝臓での胆汁酸代謝や外来異物に影響を与えると考えられた。」
劣化ウランの肝臓に対する影響を調べた実験で、胆汁酸代謝への影響を示唆しています。これによって生体にどういった影響があるのかを調べていくと、さらに興味深い事が明らかになるかもしれません。
「Temporal clinical chemistry and microscopic renal effects following acute
uranyl acetate exposure.
急性酢酸ウラン投与後の臨床生化学および腎組織への一時的影響
Zimmerman
KL, et, al.
Toxicol Pathol.
2007;35(7):1000-9.
Laboratory for Neurotoxicity Studies, Virginia-Maryland Regional College
of Veterinary Medicine
劣化ウランの軍における使用は、この金属の毒性学に対する関心を再び呼び起こした。本研究では、劣化ウラン曝露による腎毒性をストレス曝露の有無別に測定した。SDラットの成体雄に0、0.1、0.3、1.0mg/kgの劣化ウランを単回筋肉内注射した。水泳ストレスを行ったラットではコルチコステロンの濃度が763.65±130.94ng/ml、行わなかったラットでは189.80±90.81ng/mlであった。血中および腎臓でのウラン濃度、ヘマトクリット、血液生化学、腎臓組織を投与1日・3日・7日・30日後に調査した。投与量に比例して血中および腎臓でのウラン濃度が増加していた。劣化ウラン濃度は腎臓では投与1日後、血中では投与3日後・7日後にピークとなった。投与量に比例したクレアチニンおよび尿素窒素の上昇が3日後および7日後に観察された。血中アルブミンの減少がクレアチニンおよび尿素窒素の上昇と同時に起こっており、蛋白漏出腎症が示唆された。投与量に比例して急性尿細管壊死および増殖性糸球体腎炎の所見が見られた。投与量の低いラットでは、投与30日後には尿細管がほぼ再生を完了していた。投与量の多いラットでは、尿細管壊死がひろがり、慢性巣状間質性腎炎や皮質瘢痕の所見が見られた。糸球体の変化は全ての群で30日後には元に戻っていた。ストレス曝露による腎臓への影響は観察されなかった。」
筋肉内に投与した劣化ウランが腎臓にどのような影響を与えるか調査した実験。投与量が低い場合、一時的に傷害を受けるものの30日後には再生していたとのことですが、投与量が多い場合には糸球体のみ回復し、間質にはダメージが残っていたとのことです。これまでの研究で予想されていた範囲内といえば範囲内の結果ですが、水泳ストレスを与えて変化を見ているのが新知見でしょうか。とくに影響はなかったとのことですけども。
劣化ウランの摂取経路(肺・小腸)、代謝臓器(腎臓、肝臓)、蓄積臓器(骨、マクロファージなど免疫系)、中枢神経系に関する動物実験の結果が次々と報告されており、劣化ウランがこれらの臓器に障害を与える機序についても解明が期待されます。そうすれば将来起こるかも知れない障害を予防できる薬も開発できる可能性が出てくるわけで。
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