劣化ウラン弾の話 その14

さて、こんどは動物実験の話です。まずは全文が手に入った論文から。


「Genotoxic and Inflammatory Effects of Depleted Uranium
Particles Inhaled by Rats
ラットに劣化ウラン粉塵を吸入させた際の遺伝子毒性および炎症惹起効果

Marjorie Monleau
TOXICOLOGICAL SCIENCES 89(1), 287–295 (2006)

要旨

劣化ウランは、核工業から排出される放射性重金属であり、軍事的に広く使用されている。ウランの吸入は肺線維症および肺ガンを起こす可能性が指摘されているが、これら病理学的効果を引き起こす分子的プロセスについてはまだよく解明されていないため、ラットに劣化ウランを吸入させ、遺伝子毒性および炎症発生プロセスを研究することとした。その結果、劣化ウランの吸入は、気管支肺胞吸引で得られた細胞(BAL細胞)のDNA鎖切断を引き起こし、肺組織での炎症性サイトカインおよび過酸化水素産生を増加させることが判明し、これらによって炎症が促進され、酸化ストレスが加わっている可能性が示唆された。これらの悪影響は吸入量に比例し、ウランの可溶性や吸入タイプとは無関係と思われる。繰り返し吸入させたところ、BAL細胞や腎細胞への悪影響が増大した。コメット法の結果、BAL細胞のDNA障害には二重鎖切断が含まれており、これは劣化ウランの放射線の影響と考えられた。これらの結果は、劣化ウラン吸入による病理学的効果の理解に寄与するものである。」


ということで、劣化ウランをラットに吸入させ、肺および腎臓の細胞に対する影響を調べた実験です。



「はじめに

ウランは自然界に存在する放射性重金属である。原子力発電所の核燃料として使用されるウランは核燃料工場で加工される。ウランには同位体含有量の違いで天然ウラン、劣化ウラン、濃縮ウランといった分類があり、また可溶性も状態により異なる。劣化ウランは核燃料工場における副産物で、放射能が天然ウランよりも約40%少ない。劣化ウランは密度が高いなどの性質を持っており、重戦車の装甲、徹甲弾、ミサイルなどに使用されている。劣化ウランを生産する工場関係者や、使用する兵士には、暴露の危険が生じる。暴露の主要経路は肺からの吸入とされる。しかし、ウランの吸入により健康にどのような影響があるのかについては、まだよく分かっていない。

ウラン鉱山労働者に対し、これまで様々な疫学的調査が行われた。これらの研究で、ラドン系列核種により肺ガンや肺線維症が引き起こされることが分かっているが、ウランがそれにどこまで関与しているかを判断するのは困難である。劣化ウラン弾を被弾した湾岸戦争参加兵や、ウラン合金に暴露したヒト、ウラン鉱山労働者の末梢血細胞に染色体異常や遺伝子障害が見られるという報告がなされている。劣化ウランによる発ガンリスク調査は、ウランの放射線及び化学毒性という二重の毒性のため、複雑である。しかし、細胞実験レベルでは、劣化ウランはヒト骨芽細胞を腫瘍原性発現型に変化させ、遅延型細胞分裂死として表れる遺伝子不安定性を与え、小核形成を起こすことが分かっている。

 動物に劣化ウランを吸引させる実験の大部分は、ウランの代謝経路やマクロでの影響を調べるものであった。これらの研究の結果、ウラン粉塵を吸引すると、主に肺と気管・気管支リンパ節にウランが蓄積し、肺ガンや肺線維症を引き起こす可能性が指摘されている。しかし、劣化ウランの暴露により、どのような分子プロセスでこれら病理学的変化が引き起こされるかに関しては、とくに生体レベルでは良く分かっていない。劣化ウランを吸入してそれが組織内に沈着すると、マクロファージおよび上皮細胞に主に蓄積する。マクロファージは肺胞内からの劣化ウランの除去と保持に関与している。活性化されたマクロファージは、炎症性サイトカイン前駆体および抗炎症サイトカインを放出することがわかっている。マクロファージにウランを暴露させる細胞実験では、細胞活性に影響を与え、TNF-αの分泌やMAPK活性化を引き起こすことがわかった。この炎症反応は生体防御のカギとなる反応であるが、過剰に生じたり、不必要に長く続いたりすると、疾患の原因ともなりうるものである。遺伝子毒性はウラン粒子の直接および間接的メカニズムにより生じうるもので、しばしば炎症細胞からの酸化ストレスにより仲介される。

 劣化ウランを吸入することにより生じる病理学的プロセスをより詳しく理解するため、我々は劣化ウランをラットに吸入させ、遺伝子毒性および炎症の発生を研究することとした。影響に関しては、劣化ウランの量、可溶性、吸入方法などを変えて調べた。」


まずはこの実験を行うに至った経過から。細胞実験レベルではウランによる染色体・遺伝子毒性が報告されており、動物に対する吸入実験ではウランの肺への蓄積が報告されていますが、動物の肺細胞に蓄積したウランがどのように細胞や組織に傷害を引き起こすかという事に関してはまだよく分かっていないため、これを調べるべくラットに対する劣化ウラン吸入実験を行ったとのことです。



「方法

 実験動物。病原体のない雄の成体OFA-SDラット(体重500g程度)をフランスのチャールズ・リバー研究所から取得した。ラットは2匹1組にしてケージ内で飼育した。体重、飲食物消費といったラットの一般健康数値を週に1度測定した。本研究における動物実験は、フランスの機関で審査を受け、倫理的に問題ないことを確認した。異なるグループ間の統計学的比較は、マンン・ホイットニー試験で0.05未満を有意とした。

エアロゾル発生法。ウラン核燃料サイクル工場で生じた2酸化ウランおよび4酸化ウランの粉末をフランスのCOGEMAから入手した。2酸化ウランの特徴は以下の通り:不溶性劣化ウランで、アルファ線活性は1gあたり13000ベクレル、ウラン23899.75%、ウラン2350.24%、ウラン2340.001%、ウラン2360.0003%未満、ウラン2320.00001%未満含む。4酸化ウランの特徴は以下の通り:可溶性劣化ウランで、アルファ線活性は1gあたり25000ベクレル、ウラン23899.54%、ウラン2350.39%、ウラン2340.005%、ウラン2360.0061%、ウラン2320.00001%未満含む。エアロゾル発生器はアメリカ製のスモール・スケール・パウダー・ディスパーサー(SSPD)モデル3433を使用した。エアロゾル粒子直径の分布は、アンデルセン・インパクターとアメリカ製のエアロダイナミック・パーティクル・サイザー(APS)モデル3310Aを使用して測定した。2酸化ウランエアロゾルの空力学的平均活性直径(AMAD)は2.53ミクロンで、質量中央値空力学的直径(MMAD)は1.8ミクロン、空力学的直径中央値は0.91ミクロンだった。4酸化ウランエアロゾルでは、AMAD2.34ミクロン、MMAD1.31ミクロン、空力学的直径中央値が0.74ミクロンだった。これらの劣化ウランおよびエアロゾルは、核燃料工場や劣化ウラン弾被弾時に飛散するのと同様の性質を持っており、サイズ的には肺胞末端まで到達できる。

 動物への暴露と安楽死。エアロゾルは鼻のみから吸入させるシステムを使用してラットに吸入させた。吸入チャンバーの粒子濃度は、0.8ミクロン径の穴が開いた直径25mmの酢酸セルロース膜フィルターを通してサンプリングした。ラットは少なくとも2週間にわたり居住空間やコンテンションチューブに順応させた。表1(下)に吸入メニューを示す。

 吸入タイプ グループ名  吸入期間  劣化ウランエアロゾル濃度  安楽死時期 
急性二酸化ウラン  AcUO2-1  30分  1立方mあたり190±41mg  4時間、1・3・8日後 
急性二酸化ウラン AcUO2-2  2時間  同375mg±70mg  1・3・8日後 
急性二酸化ウラン AcUO2-3  3時間  同375mg±70mg  1・3・8・14日後 
反復二酸化ウラン RepUO2  30分、週4日、3週間  同190mg±41mg  1・3・8・14日後 
急性四酸化ウラン  AcUO4 30分  同116mg±60mg  4時間、1・3・8日後 
 空気  対照 30分、週4日、3週間  0mg  1・3・8・14日後 

 ラットに吸入させるエアロゾル濃度は、劣化ウラン工場の空気中に含まれるものよりも濃い。工場内に含まれる5ミクロン以下の劣化ウラン粒子濃度は、可溶性粒子濃度で1立方メートルあたり0.74mgとされる。一方で、戦場においては1立方メートルあたり0.05から5000mgと、状況によって大きく異なる。ラットの臓器、とくに肺や腎臓に含まれるウラン化合物は、アメリカ製のキネティック・フォスフォレッセンス・アナライシス(KPA)により測定した。2酸化ウラン急性暴露グループその3における肺への沈着量を、2酸化ウラン反復暴露グループと比較した。また、2酸化ウラン急性暴露グループその1における肺への沈着量を、暴露1日後に4酸化ウラン急性暴露グループと比較した。つまり我々は、2酸化ウラン急性暴露グループを3種類製作することで単独吸入における吸入時間や吸入濃度の影響を、2酸化ウランと4酸化ウランの急性暴露における差を調べることで可溶性による影響を、単独吸入と反復吸入の差を調べることで吸入パターンによる影響を、それぞれ調査したのである。腎臓中のウラン化合物は、腎毒性を発揮する濃度には達しなかった。1グループあたり3匹のラットにペントバルビタール腹腔内投与を行って麻酔をかけ、腹腔動脈を体外循環した。コメット法のための鼻粘膜上皮細胞の分離は、それぞれのグループのラットを暴露後同じタイミングで取り出し、安楽死させた日に行った。

 生化学分析。4酸化ウラン急性暴露グループ、2酸化ウラン反復暴露グループ、対照グループからそれぞれ採血し、測定まで-20℃で保存した。ALTAST、クレアチニン、尿素を測定した。

 鼻粘膜上皮細胞の分離。スティール氏とアーノルド氏が1985年に記載した方法を用いて上皮細胞を取り出した。まず気管からチューブを入れて鼻腔を酵素混合液(プロテアーゼ140.5%、コラゲナーゼ4型0.1%、ヒアルロニダーゼ4S0.1%)で満たした。保温の後、剥がれた細胞が混ざった酵素混合液を4℃1500回転で15分間遠心し、純水を加えて同様に遠心することを繰り返して洗浄した。底にたまった細胞ペレットに250マイクロリットルのPBSを加え、170マイクロリットルをコメット法に、80マイクロリットルを細胞活性の測定に使用した。

BAL細胞の分離。肺を気管と心臓ごと切除し、気管にチューブを入れて37度の生理食塩水50mlを流し込み、気管支肺胞洗浄液(BALF)を採取した。BALF900G・4℃で10分間遠心し、底に溜まったBAL細胞に2mlPBSを加えた。BAL細胞は主として肺胞マクロファージ(約95%を占めるとされる)である。BALの後、肺組織はミンチにしてマイナス80度で保存、後で蛋白及びRNAの抽出に使用した。

腎細胞の分離。腎臓500ミリグラムをミンチにし、カルシウム・マグネシウムフリーのハンクス食塩溶液(HBSSフリー)+20ミリモーラーHEPES0.8ミリモーラーEDTA液で洗浄した。0.25%トリプシンと0.05%EDTAを加えた37℃のHBSSフリー溶液を加えて10分ほどゆっくり振り混ぜ、700G・4℃で10分遠心し、底のペレットを1mlPBSに溶いた。

コメット法。コメット法は、生体におけるDNA鎖切断を検出するために使用される。アルカリ状態下でのコメット法は、DNA単鎖・二重鎖切断を同時に検出でき、中性状態下ではDNA二重鎖切断(放射線による障害に特徴的とされる)のみを検出できる。全てのサンプルは、細胞活性が85%以上(マラセッツ・ヘモサイトメーターを使用して測定)であった。アルカリ状態下でのコメット法は、鼻粘膜上皮細胞(スライド1枚あたり細胞液85マイクロリットル)、BAL細胞(2裏緯度1枚あたり細胞3万個)および腎臓細胞(スライド1枚あたり細胞30万個)を使用して実施し、中性状態下でのコメット法は、BAL細胞を使用して行った。それぞれのサンプルあたり2枚のスライドを準備した。試験終了までの間、サンプルやスライドは暗室で4℃を保った。分離した細胞は0.5%PBSを含む低融点アガロースと混合し、0.5%アガロースでコーティングしておいたスライドの上に置いた。スライドは2.5モーラーのNaCl100ミリモーラーのNa2EDTA10ミリモーラーのTris10%DMSO1%Triton X-100溶液(pH10、4℃)に1時間した。スライドはDNA鎖をほどくため、アルカリ状況下では30分、中性状況下では20分、電気泳動バッファを含む電気泳動ユニットに置いた。アルカリ電気泳動バッファは、300ミリモーラーのNaOH、1ミリモーラーのEDTAを含むpH13以上のもので、中性バッファは100ミリモーラーのTris300ミリモーラーの酢酸ナトリウムを含むpH9のものである。スライドはアルカリ状態下では1cmあたり0.84ボルト(25ボルト、350ミリアンペア)で20分、中性状態下では1cmあたり0.4ボルト(12ボルト、100ミリアンペア)で1時間、それぞれ電気泳動した。電気泳動の後、スライドは0.4モーラーTris-HCLpH7.5)に10分間浸して中性化し、水で洗い、100%エタノールで脱水し、室温で一晩風乾した。乾いたスライドは1ミリリットルあたり2.5マイクログラムのヨウ化プロピジウムを含む溶液で染色し、オリンパスBX61蛍光顕微鏡の倍率250倍で観察した。映像分析にはCohuカメラおよびFenenstra Kometソフトウェア(バージョン5.5)を使用した。それぞれのサンプルの細胞100個(細胞50個を対にした)を観察した。オリーブ・テイル・モーメント(OTM)の増加は、DNA障害の定量化に使用される。DNA障害のインデックスとしてOTMを使用する大きな利点は、DNA障害量および遺伝的素材の移送距離を1つの数値で表せることである。OTMの通常の分布頻度は、最小から最大まで40OTMクラスになるようにして計算する。非直線回帰分析は、chi-square機能モデルを使用して行った。OTMchi2と呼ばれる自由度(n)は、DNA障害のレベルを記述する定量的パラメーターとして以前より使用されている。自由度はテーブルカーブ2Dソフトウェアを使用して計算した。OTMchi2に関与するそれぞれのサンプル(細胞100個)は、任意のユニットを表現した。暴露後の時間や細胞の種類の影響を排除するため、3種類の暴露ラットから得られたOTMchi2を計算し、対照グループのデータと比較した。

サイトカインのメッセンジャーRNAレベルの定量化:RT-PCR分析。これらの実験は2酸化ウラン反復暴露モデル、2酸化ウラン急性暴露モデルその3、対照群その1・その3、暴露後14日ラットを対照に行った。肺組織60ミリグラムからRNA分離ミニキット(フランスのキアゲン社製)を使用して全RNAを抽出し、260ナノメートル波長の吸光度によりRNA濃度を測定した。RNAの整合性は260ナノメートルと280ナノメートルの吸光比を測定して評価し、アガロースゲル電気泳動の後に18S28SRNAのバンドを視認して確認した。1マイクログラムの全RNAをテンプレートとし、GIBCO社製のスーパースクリプト逆転写酵素200単位、1Xスーパースクリプトバッファ入り反応バッファ20マイクロリットル、2-デオキシヌクレオチド5’トリフォスフェート1ミリモーラー、ランダムヘキサマー20ナノグラム、10ミリモーラーのDTTRNA分解酵素抑制剤20単位を使用してcDNAを作成した。これら溶液を42℃で60分温め、変性酵素を加えて70℃で15分間温めて反応を終了した。測定したのは、TNFα(腫瘍壊死因子α)、IL-8(インターロイキン8)、MIP-2(マクロファージ炎症性蛋白2)、IFNγ(インターフェロンγ、以上炎症性サイトカイン)、IL-10(インターロイキン10、抗炎症サイトカイン)、HPRT(ヒポキサンチン-グアニンフォスフォリボシルトランスフェレース、ハウスキーピング遺伝子)のメッセンジャーRNA量である。プライマーの配列は表2(略)に示す。ABI PRISM 7000シークエンス探知システムにより、RT-PCR産物のシークエンスを解析した。このときのPCRメニューは、50℃2分、9510分、9515秒・60℃1分×40回、である。PCR蛍光シグナルはそれぞれHPRTから得られた蛍光シグナルをもとに標準化した。

過酸化物レベルの決定。サンプル中の過酸化物の測定は、潜在的な酸化ストレスを反映する組織中に存在するフリーラジカルの程度を決定する上で重要な要素である。2酸化ウラン反復暴露ラット、2酸化ウラン急性暴露ラットその3、対照群その1・その3、暴露後14日ラットからそれぞれ600mgの肺組織を取り出し、1mlのリン酸化バッファ(10ミリモーラーのKH2PO440ミリモーラーのNa2HPO40.01ミリモーラーのEDTApH7.5)中でホモジナイズし、15000G・4℃で15分間遠心し、上清を実験に使用するまでマイナス80℃で保存した。上清中の蛋白レベルは、ブラッドフォード定量法で測定した。水成および脂質過酸化物レベルは、ペロキシディテクト・キット(フランス・シグマ社製)により測定した。サンプルは水成試薬(100ミリモーラーのソルビトールおよび125マイクロモーラーのキシレノールオレンジ水溶液1ミリリットル、2.5モーラー硫酸中25mミリモーラー第一鉄アンモニウムサルフェート10マイクロリットル)もしくは有機試薬(4ミリモーラーのブチル化ヒドロキシトルエンおよび125マイクロモーラーのキシレノールオレンジの90%メタノール溶液1ミリリットル、25ミリモーラーの第一鉄アンモニウムサルフェートの2.5モーラー硫酸溶液10マイクロリットル)に入れ、30分間、25℃で温めた。水成溶液中のH2O2レベルおよび組織溶媒中の過酸化脂質レベルは、560ナノメートルの吸光度で測定した。」


具体的な実験法はともかく、不溶性の2酸化ウランを1回だけ吸入させたラット(吸入時間は30分、1時間、2時間。濃度は30分のみ低濃度)、2酸化ウランを週4日・3週間吸入させたラット、可溶性の4酸化ウランを1回だけ吸入させたラット(吸入時間30分)、ウランを含まない空気を吸入させたラットを製作し、肺のウラン沈着量、血液生化学データ、鼻粘膜上皮細胞・気管支洗浄液細胞・腎細胞の遺伝子、肺組織の過酸化物の量を測定比較した、というのが実験の内容です。4酸化ウランは吸入時間を変えたり慢性投与させたりはしておらず、2酸化ウランに主眼を置いた実験のようです。エアロゾル濃度は重量換算でもモル換算でも4酸化ウランの方が2酸化ウランより低いような気もしますが、腎不全を発生させない濃度、という説明があるだけで、どうしてこの濃度にしたのかは不明。



「結果

一般的な健康状態パラメーター 

 一般的な健康状態のパラメーターを表3(略)に示す。対照群、2酸化ウラン急性暴露ラットその1、2酸化ウラン反復暴露ラットは同じような体重の推移を示した。しかし、2酸化ウラン急性暴露ラットその2・その3、4酸化ウラン急性暴露ラットは吸入後10日ほど体重が減少した。その後は体重が上昇に転じたものの、他のグループと比較して低体重のままだった。ラットの食物摂取量は、対照群、2酸化ウラン急性暴露ラットその1-3、4酸化ウラン急性暴露ラットでいずれも同じであったが、2酸化ウラン急性暴露ラットその2・その3、4酸化ウラン急性暴露ラットは4日目に刻々と低下した。2酸化ウラン急性暴露ラットその2の体重減少量および食物摂取減少量は、その3に比べると低いものだった。水分摂取量も食物摂取量とほぼ同じ結果だったが、2酸化ウラン急性暴露ラットその2では摂取量に変化が見られなかった。これらの結果は、ウランを吸入したラットの一般的健康状態パラメーターが、吸入量、可溶性、吸入タイプ(急性か、反復か)に依存することを示している。

 生化学データを表4(略)に示す。ALTASTは対照群と暴露群に差はなく、肝障害は起こしていないと考えられた。4酸化ウラン急性暴露ラットは投与後3日および8日にクレアチニンおよび尿素の上昇をみており、可溶性ウランによる腎障害を起こしていた。」


体重は2酸化ウランでは急性曝露の濃度が高い・時間が長いもので減少しました。また、4酸化ウランでも減少しました。2酸化ウラン慢性曝露ではとくに変化が無く、体重減少には閾値があるのかもしれません。血液検査では4酸化ウラン曝露ラットのみ腎障害を起こしており、可溶性のウランが血液に分布し、腎臓から排出されたためであろうと推定されます。



「DNA障害

 鼻粘膜上皮細胞のDNA鎖切断は、OTMchi2の数値がいずれも2-3であり、ウランに暴露した後も生じていなかった。

 アルカリ状態でのコメット法を行った後のBAL細胞におけるOTMchi2の値を図1(略)に示す。DNA障害は、高濃度2酸化ウラン急性暴露ラット(2酸化ウラン急性暴露ラットその3のこと。肺組織1gあたり600マイクログラムの劣化ウランに暴露)でのみ増加していた。肺組織1gあたり40マイクログラムを暴露させた2酸化ウラン急性暴露ラットその1および4酸化ウラン急性暴露ラットではDNAの障害は検出されなかった。2酸化ウランを反復暴露させたラットのBAL細胞では、いずれの日も暴露後にDNA障害が見られた。2酸化ウラン急性暴露ラットその3と比較すると、反復吸入ではより長い反応が引き起こされていた。2酸化ウラン急性暴露ラットその3および2酸化ウラン反復暴露ラットでは、アルカリ状態下での遺伝子毒性反応が見られるとともに、2酸化ウラン反復暴露ラットの8日目を除いて中性状態下でのコメット法後のDNA障害が検出された。2酸化ウランの吸入はBAL細胞にDNA単鎖および二重鎖切断を引き起こすことが分かった。

 腎細胞でのアルカリ状態下コメット法の結果、2酸化ウラン反復暴露ラットの3日目および8日目のみ陽性反応が得られた。」


DNA傷害は鼻粘膜では起きていなかったとのことですが、恐らくウラン粒子が小さいために鼻ではトラップされなかったものと思われます。肺では2酸化ウラン反復吸入ラット(RepUO2)で遺伝子傷害が見られました。高濃度急性曝露(AcUO2-3)でも1日目と8日目に有意な傷害が出ましたが、3日目と14日目には観察されていません。
腎機能障害は4酸化ウラン曝露ラットで出現していましたが、DNA傷害が出たのは2酸化ウラン反復曝露ラットの曝露初期から中期のみでした。腎機能傷害はウランの重金属毒性による尿細管障害が主と思われますので、DNAに変化が無くても特におかしなデータではありません。



「炎症性サイトカイン

 炎症反応に関与するTNFα、MIP-2IL-8IFNγ、IL-10の発現を、対照群、2酸化ウラン急性暴露ラットその3、2酸化ウラン反復暴露ラットその1・その3に関し、暴露後1日目、3日目、14日目で調べた(図4・略)。2酸化ウランの1回吸入(2酸化ウラン急性暴露ラットその3)では、TNFα、IL-8IL-10のメッセンジャーRNAの増加が暴露後1日目においてのみ検出された。反復暴露では、3日後にTNFα、IL-8MIP-2のメッセンジャーRNAが増加しており、14日後にはTNFαが著明に上昇した。

 過酸化物レベル

肺組織中の過酸化物レベルの測定は、フリーラジカルのレベルの評価を可能とする(図5・略)。2酸化ウラン急性暴露ラットその3の肺組織における水成および脂質過酸化物は、暴露後14日目においてのみ対照群と比較して高い値を示したが、2酸化ウラン反復暴露ラットでは、水成過酸化物が暴露後1・3・14日目、過酸化脂質が3・14日目に高い値となった。」


メッセンジャーRNAや過酸化物を調べる実験でも、高濃度急性曝露ラットや反復曝露ラットで変化が出たtのことです。



「考察

 吸入という摂取経路がウラン鉱山労働者の暴露経路として最も重要であるが、ウランや劣化ウランの吸入による影響がどのようなプロセスで生じるのかについてはほとんど研究されてこなかった。劣化ウランの吸入が分子学的にどのような結果をもたらすのかを生体で解明した実験は少なく、とくに反復吸入におけるものはほとんど行われていない。兵士を対象とした研究は、劣化ウラン弾の破片が食い込んだ場合に関心が向けられているが、兵士においても吸入という経路が重要な位置を占めているし、兵士への健康の影響も、ウラン吸入をベースとした疫学研究や動物実験の結果から推定されているのである。本研究では、ラットに劣化ウランを吸入させた場合に遺伝子毒性および炎症がどのように生じるのかについて調査を行った。

 近年、放射線生物学分野での実験や吸入暴露実験などのヒトの生物学的モニター研究で、コメット法が使用されている。DNA障害を測定する発展的な方法として、今回行ったように、アルカリ状態下でのコメット法を行うというものがある。2酸化ウラン吸入パターンをいくつか比較してみたところ、遺伝子毒性は、最も濃度の高い吸入ラットにおいてのみ観察されており、BAL細胞では、劣化ウランによる遺伝子障害に閾値が存在すると思われる。可溶性に関しては、とくに影響は見られなかった。2酸化ウラン急性暴露ラットその3に与えたのと同じ量の2酸化ウランを12回にわけて投与したところ、BAL細胞にはDNA障害が生じた。ウランは肺に蓄積した後、血漿やリンパ液に溶解し、他の臓器へと運ばれる。腎臓がその標的臓器である。腎細胞へのDNA障害の誘発は、2酸化ウラン反復暴露でのみ生じた。DNA障害が起こらなかったのは、内在性の抗酸化物質がウランによる毒性に対抗したものと考えられる。遺伝子毒性の閾値は、DNA修復能力と抗酸化物質の量によって決まる。単回暴露に比べ、反復暴露では、修復機能の誘発に差があったのかもしれない。以前の報告では、カドミウムに単回暴露させるとDNA障害への耐性が生じたというものや、鉛の反復吸入暴露では単回暴露に比べて遺伝子毒性がより多く出現したというものがある。本研究では、劣化ウラン粉末の反復吸入により、BAL細胞や腎細胞に対して、ウランの潜在的毒性効果が誘発されたように思える。

 中性状態下でのコメット法で、2酸化ウラン暴露BAL細胞(肺組織1gあたり500マイクログラム・7ベクレル)にはDNA二重鎖切断が観察された。DNA二重鎖切断は、同一箇所でDNA鎖が2本とも切れているか、DNA単鎖切断2つが至近距離で起きているかのどちらかである。以前の培養系を使った研究報告では、劣化ウランのもつ生物学的な影響に、放射線によるものが含まれているとされている。その実験では、ヒト骨芽細胞に劣化ウランを加えたところ、染色体異常の頻度が他の重金属に比べて上昇し、ガン化形質転換も増加したとのことである。放射線が劣化ウランの効果に寄与しているメカニズムについては不明であるが、放射線と化学的な影響が同調的に作用している可能性はある。」


DNA障害に関する考察では、反復吸入による傷害の増幅を指摘しています。また、DNA二重鎖切断が観察されたということですが、これは放射線や活性酸素、ある種の物質などで起こるので、これだけで傷害の原因が放射線なのか化学毒性であるかを特定することはできません。



 「我々は、難溶性粉塵における炎症と腫瘍発生の関連を示した以前の報告を参考に、遺伝子毒性が炎症反応の結果として生じると考え、肺における炎症遺伝子の発現を調べた。DNAαは、マクロファージや好中球からのサイトカイン放出、気管支上皮細胞などさまざまな肺細胞でのサイトカイン活性を反映する。また、サイトカインネットワークにより呼吸器系炎症反応を引き起こすもととなっており、炎症性細胞の誘導にも関与している。

しかし、TNFαは、繊維化のような組織障害も仲介する。IFNγは、さまざまな刺激に反応して免疫細胞で生産される。これまで、肺における繊維芽細胞成長の抑制、コラーゲン・ヒスタミン含有物合成の阻害など、繊維化反応に関与していることが報告されている。IFNγは、炎症反応も仲介する。IL-8は、白血球化学遊走性サイトカイン(ケモカイン)であり、さまざまな刺激によってさまざまな細胞が製作し、とくに白血球の機能を調節する。MIP-2は、ヘパリン結合蛋白で、炎症および炎症制御活性を示す。MIP-2は、齧歯類の肺において、好中球の炎症反応を仲介するのが主要な役割である。TNFαとMIP-2は、粉塵による炎症や、酸化ストレスの制御に主要な役割を示すと考えられている。IL-10は、抗炎症性サイトカインであり、他のサイトカインの産生を抑制し、間接的にマクロファージなどによる免疫反応を抑制する。今回の研究で、2酸化ウランの急性暴露がラットの肺における炎症性サイトカイン(IL-8TNFα)および抗炎症性サイトカイン(IL-10)の遺伝子発現の上昇を引き起こした。2酸化ウランの反復暴露でも同様の現象が見られたが、時間的には急性暴露よりも遅れて出現した。反復暴露では、炎症性遺伝子が3日目に出現し、TNFαのみ14日目も発現が持続していた。一方で、抗炎症サイトカインであるIL-10のメッセンジャーRNAは発現しなかったが、これは炎症遺伝子発現のバランスが崩れたためと考えられる。この結果は、以前に培養系で報告された、マクロファージ細胞にウランを暴露させた際にTNFαが上昇したがIL-10は上昇しなかったという結果と一致する。また、ウラン鉱山労働者のBAL液中のフィブロネクチンとTNFαを測定したところ、一般人よりも増加していたという研究も出されている。

 上で述べたように、ROS(反応性酸化物)の産生は粉塵および炎症反応の効果と関連している。ROSの肺におけるもっとも重要な細胞学的効果は、脂質過酸化ストレスによる細胞膜障害、蛋白の酸化、標的細胞へのDNA障害である。炎症性細胞からのROSの持続的かつ過剰な産生は、難溶性粉塵の間接的遺伝子障害の特徴として考えられている。過酸化物の増加は、くりかえし暴露した場合の肺組織で証明された。2酸化ウランの反復吸入は、適応耐性を生じないということに注意する必要がある。以前の培養系実験では、劣化ウランは、ヒトロキシラジカルのようなROS、スーパーオキサイドラジカルなど、放射能による影響以外で生じるDNA酸化障害を含む生化学的反応を触媒することが可能であるという結果が出た。SOD、カタラーゼ、GPxは、抗酸化防御システムの主要構成物であり、潜在的な酸化ストレスを反映して発現量が修正される。マウスの腎臓にウランを注入する実験では、注入量に応じて過酸化水素が作られ、SODGPxのメッセンジャーRNA量が増加した。このようなデータから、劣化ウランは酸化ストレスを誘発すると考えられる。」


ここでは、劣化ウランがサイトカインを誘発し、免疫反応の異常や酸化ストレスの増加を引き起こすことが指摘されています。酸化ストレスはDNA傷害の原因となり得ますので、この経路でのDNA傷害が発生している可能性もあると思われます。



 「まとめると、第1に、劣化ウラン吸入が異なったラット細胞にDNA障害を引き起こすことが判明した。BAL細胞では、劣化ウランの可溶性と関係なく、量や吸入のさせ方と関連したDNA障害が観察され、放射線によるものと考えられるDNA二重鎖切断も生じていた。腎臓細胞では、反復暴露させた場合にのみDNA障害が引き起こされた。第2に、劣化ウランの不溶性粉塵は、ラットの肺に過酸化物を生成させ、複数のサイトカインのメッセンジャーRNA量を増加させることがわかった。また、増加パターンは、急性暴露と反復暴露では異なっていることも判明した。これらの結果から、DNA障害は炎症プロセスやROS産生の結果であり、不溶性劣化ウラン粉塵の反復暴露がこれらの効果を生んでいる可能性が指摘できる。以上の発見は、ウラン吸入における病理や、劣化ウランの毒性を理解することに寄与するもので、リスク管理にも重大なインパクトを与えるものとなろう。」


ここで「劣化ウランの可溶性と関係なく」とありますが、4酸化ウランでは傷害が観察されていないので、多少は関係あるような。ともかく、不溶性劣化ウラン粉末はある程度以上を吸入すると免疫反応の異常や肺・腎細胞でのDNA傷害を引き起こすことが判明した、という内容の論文でした。


以下、要旨をいくつか。

「Absorption, accumulation and biological effects of depleted uranium in Peyer's patches of rats.
ラットのパイエル板における劣化ウランの吸収・蓄積および生物学的効果

Toxicology. 2006 Oct 29;227(3):227-39. Epub 2006 Aug 17.
Dublineau I, et al.
Direction de la RadioProtection de l'Homme, Service de Radiobiologie et d'Epidémiologie, Laboratoire de Radiotoxicologie expérimentale

消化管は、放射能に汚染された食物や水を摂取する経路である。消化管の中では、小腸がウランを吸収する主要な場所とされている。本研究では、小腸でのウラン吸収におけるパイエル板の役割を決定し、リンパろ胞における放射能の積算を行い、ウランの通過および蓄積によって生じるパイエル板の毒性学的および病理学的な結果を検討した。アッシングチャンバーで行われた実験の結果、小腸におけるウランの見かけの浸透性は粘膜(6.21±1.21×10^-6)の方がパイエル板(0.55±0.35×10^-6)よりも10倍高く、小腸上皮がウランの粘膜通過経路として優先的であることが判明した。3-9ヶ月間、劣化ウラン汚染状況下に置いた後、ICP-MSによりウランの量を分析したところ、パイエル板では3ヶ月後に1355%、9ヶ月後に1266%であったのに対し、上皮ではそれぞれ890%と747%であった。ウランは腸間膜リンパ節でも検出され、曝露後にはおよそ5倍になっていた。慢性曝露後の劣化ウランの蓄積による生物学的効果をパイエル板で研究した。パイエル板では劣化ウラン慢性曝露後にアポトーシス経路の誘導は見られなかった。Il-10、TGFβ、IFNγ、TFNα、MCP-1といったサイトカインがパイエル板や腸間膜リンパ節で変化せず、パイエル板でのイースト細胞の取り込みが変化することもなかった。以上、本研究では、パイエル板が慢性ウラン曝露におけるウラン蓄積箇所となることが判明したが、その機能には特に変化を及ぼさなかった。」


パイエル板とは、小腸の粘膜内に存在するリンパ球の集合場所で、ミニ・リンパ節ともいえるものです。役割は、腸から侵入した異物をいち早くキャッチし、免疫組織に情報を伝えること。いわばアンノウンの侵入を知らせるレーダーサイトのようなものです。この実験では、ラットにウランを摂取させると、ウランの吸収経路である腸上皮よりも、パイエル板の方に多くのウランが蓄積することが判明したとのこと。その後方に控える腸間膜リンパ節でも5倍量のウランが検出されたとのことですが、パイエル板、腸間膜リンパ節共に機能異常は起こしていなかったとしています。ウランの曝露濃度が書かれていませんので、ヒト換算ではどれくらいになるのかは不明。



「Bioaccumulation, oxidative stress, and neurotoxicity in Danio rerio exposed to different isotopic compositions of uranium.
ダニオ・レリオにおける、ウランの放射性同位体構成の違いによる生物学的蓄積、酸化ストレス、神経毒性の差

Environ Toxicol Chem. 2007 Mar;26(3):497-505.
Barillet S, Adam C, Palluel O, Devaux A.
Laboratory of Radioecology and Ecotoxicology


雄のゼブラフィッシュ(ダニオ・レリオ)の成魚に、異なる同位体で構成されたウラン(ウラン233を含む劣化ウランと、含まない劣化ウラン)を暴露させ、暴露後早期における変化を観察した。酸化ストレスおよび神経毒性をウランによる化学・放射線毒性の結果とみなし、調査を行った。カタラーゼ、グルタチオンペルオキシダーゼ、スーパーオキサイドディスミューターゼの活性と、肝臓抽出物におけるグルタチオン含有物の総量、脳におけるアセチルコリンエステラーゼ活性およびウラン蓄積量を測定した。ウランにより引き起こされた酸化ストレスにより、スーパーオキサイドディスミューターゼとカタラーゼの活性が低下し、肝臓抽出物におけるグルタチオン含有物の総量も低下した。これらの結果は、ウラン233を含む劣化ウランに暴露させた魚において顕著であった。脳のアセチルコリンエステラーゼ活性の大幅な上昇も観察されたが、こちらは同位体構成による差はなかった。」


こちらは魚を使用した実験で、投与経路は不明ですが、肝臓における酸化ストレスの増加と脳のアセチルコリンエステラーゼ活性大幅上昇が観察されたとのことです。前者はウラン233を含むものでとくに顕著であったとのこと。魚類とヒトではそのまま比較するのは困難ですが、今後ヒトでの調査を行うにあたっては参考となりそうです。



「Brain accumulation of depleted uranium in rats following 3- or 6-month treatment with implanted depleted uranium pellets.
劣化ウランペレットを埋め込んで3ヶ月及び6ヶ月後の脳への劣化ウランの蓄積

Biol Trace Elem Res. 2006 Summer;111(1-3):185-97.
Fitsanakis VA, Erikson KM, Garcia SJ, Evje L, Syversen T, Aschner M.
Department of Pediatrics, Vanderbilt University Medical Center, Nashville, TN, USA


劣化ウランは装甲材や徹甲弾などとして使用されている。しかし、湾岸戦争症候群の潜在的な発症因子であるという説もある。我々は、雄のSDラットに金属ペレットを埋め込み、3ヶ月および6ヶ月経過後の脳における劣化ウラン濃度を測定した。手術の前に、ラットを以下の5グループに分けた。手術を行わない対照群、タンタル20個を埋め込んだ群(シャム)、劣化ウラン4個とタンタル16個の群(低)、劣化ウラン10個とタンタル10個の群(中)、劣化ウラン20個の群(高)。ラットは週に一度、一般的な健康測定を行ったが、とくに各群で差は見られなかった。実験終了時、ラットはpH7.4のリン酸バッファー入り生理食塩水で還流し、血液中の劣化ウランが脳組織と混ざらないようにした。脳は小脳、脳幹、中脳、海馬、線状体、大脳皮質に分け、ウラン238の量を質量分析器にかけて測定した。埋め込み後3ヶ月の時点では、劣化ウランは(高)群の海馬を除くすべての脳の部分に蓄積していた。6ヶ月後は、皮質、中脳、小脳のみから検出された。この結果は、埋め込まれた劣化ウランは、脳の特異的な部分にのみ蓄積していくことを示している。」


こちらは劣化ウラン片をラットに埋め込み、脳における蓄積状況を調査したもの。長期では大脳皮質、中脳、小脳への蓄積が見られたとのことです。湾岸戦争では誤射により劣化ウラン弾の破片が体内に食い込んだままの兵士がいますので、大脳皮質や小脳機能などを計る検査により経過を追うことも重要となりそうです。




「Determination of depleted uranium in fish: validation of a confirmatory method by dynamic reaction cell inductively coupled plasma mass spectrometry (DRC-ICP-MS).
魚中の劣化ウラン量の決定:DRC-ICP-MS法による確証的な方法の実証

D'Ilio S, et, al.
Anal Chim Acta. 2007 Aug 6;597(2):195-202. Epub 2007 Jul 5.
Department of Environment and Primary Prevention, Istituto Superiore di Sanità


劣化ウランは核燃料濃縮の際に出る副産物である。委員会決定2002/657/ECによれば、凍結乾燥された魚に含まれる劣化ウランの確証的な定量法はIR-DRC-ICP-MS法であるとされている。今回、以下のパラメーターを決定するために予備的な研究を行った:手段検知限界(IDL)、同位体比測定限界(IRML)、天然ウラン存在下における劣化ウランパーセンテージ(P(DU))、定量限界(LoQ(DU))。分析はIR-DRC-ICP-MS法で実施した。細胞反応動態に使用する反応ガスとしてはアンモニアを使用した。それに加え、SF-ICP-MS法を研究室内再現の計算に使用した。確認の方法として、以下のパラメーターを測定した:(a)正確さ、(b)精度、(c)臨界濃度アルファ・ベータ(CC(alpha)、CC(beta))、(d)特異性、(e)安定性。正確さは再試験により評価した。再試験及び研究室内再現はサメ組織の完全消化溶液を添加することで決定された:6等分したものが1、1.5、2回添加され、LOQ(DU)は25.0。37.5、50.0ng/L、または4.16、6.24、8.32マイクログラム/kgで、再試験はそれぞれ-8.2、+9.5、+9.6%であり、研究室内再現(3回の分析を実施)はそれぞれ15.5、8.0、11.0%であった。検出限界及び検知容量は以下の通りであった。CC(alpha)は11.69mg/L、CC(beta)は19.8ng/L。消化溶液は、60日の試験期間中安定であり、この方法は高い特異性を持つと考えられた。」


こちらは定量的検出法の実験。正確なウラン量の測定は各種実験で必須ですので、今後とも新たなる測定法の開発が求められます。




「Distribution and genotoxic effects after successive exposure to different uranium oxide particles inhaled by rats.
ラットに異なるウラン酸化物粒子を吸入させた場合の分布および遺伝子毒性効果

Inhal Toxicol. 2006 Oct;18(11):885-94.
Monleau M, De Méo M, Frelon S, Paquet F, Donnadieu-Claraz M, Duménil G, Chazel V.
IRSN/DRPH/SRBE, Laboratoire de Radiotoxicologie Expérimentale


核燃料サイクル工場において、労働者は空気中のウラン含有物を吸引し、働く場所に依存する様々な経路により内在性の汚染を受ける。こういった暴露は、慢性的、反復性、急性とさまざまで、多くの異なる含有物から構成される。様々な暴露経路によるウランの効果は、まだよく知られていない。よって、本研究では、ラットに不溶性の2酸化ウランを急性もしくは反復吸入させたり、可溶性の4酸化ウランを急性に吸入させたりして遺伝子毒性および体内分布を調べることとした。コメット法の結果、4酸化ウラン単独ではとくに影響が見られなかったが、さらに2酸化ウランの反復吸入を行わせたところ、遺伝子毒性が増加した。同時に、4酸化ウランの実験で、腎臓、腸管、排泄物への分布が2酸化ウランをあらかじめ吸わせることにより変化することが判明した。これらから、ウランの遺伝子毒性や体内分布は、急性暴露と比較した場合、反復吸入やそれ以前に吸入していた別のウラン化合物により修飾されていることがわかった。」


最初に全文紹介したのと同じ著者による論文で、内容も似たような感じですが、4酸化ウランと2酸化ウランを組み合わせて吸入させる実験も行ったようです。実際にもこういった複雑な曝露が起きていると思われますので、新たなる知見として注目されます。



「Effect of acetaminophen administration to rats chronically exposed to depleted uranium.
劣化ウランに慢性暴露させたラットに対するアセトアミノフェン投与の効果

Toxicology. 2007 Jan 5;229(1-2):62-72. Epub 2006 Oct 17.
Guéguen Y, et.al
Institute for Radiological Protection and Nuclear Safety, Radiological Protection and Human Health Division, Radiobiology and Epidemiology Department, Laboratory of Experimental Toxicology


劣化ウランは民間でも軍事でも広く使用されており、化合物にさらされる危険性が増している。我々は以前の研究で、劣化ウランの慢性暴露が薬剤などの代謝に関与するCYP酵素の発現を誘導することを発見した。この結果として生じる薬剤代謝変化を評価するため、ラットに40mg/Lの劣化ウランを9ヶ月間慢性的に投与し、最後にアセトアミノフェン400mg/kgを投与する実験を行った。アセトアミノフェンは、治療域では安全な薬剤と考えられているが、過量投与や感受性の高い動物では、肝臓毒性および腎臓毒性が生じうる。本研究で、血漿中のアセトアミノフェンは、劣化ウランを投与しないグループに比べて劣化ウランを投与したグループの方が上昇していた。それに加え、劣化ウラン投与グループでは血漿中のALTおよびASTの上昇が劣化ウランを投与しないグループよりも早期に生じた。組織学的検査では、肝臓にはとくに変化が見られなかったが、腎臓では劣化ウラン暴露グループの方に近位尿細管細胞の壊死が多く観察された。さらに、劣化ウラン暴露グループの腎臓では、アセトアミノフェンの活性化及び毒性に重要な役割を示すCYP2E1遺伝子の発現が対照グループよりも増加していた。肝臓では、CYP酵素活性が劣化ウラン暴露グループおよび対照グループ両者で減少していた。これらの結果から、劣化ウランに慢性的に暴露すると、アセトアミノフェンの血漿中での代謝が悪化すると推定され、劣化ウランの慢性暴露が薬剤代謝を修飾するという仮説が証明された。」


薬物の活性化や分解などに関与するCYPという酵素(チトクロームP450の方が通りが良い方もいらっしゃるかもしれません)が、劣化ウランによってどのような影響を受けるか調査した実験で、とくにアセトアミノフェン(アスピリン)の代謝に関与するCYP2E1を調べています。劣化ウラン投与によってCYP2E1遺伝子の発現量が減少し、アスピリンの代謝に影響が出たとのこと。CYP酵素群は物質の代謝に広く関与しているので、劣化ウランによる影響をさらに調査していることが重要と思われます。



「Effects of depleted uranium after short-term exposure on vitamin D metabolism in rat.
ラットのビタミンD代謝に対する劣化ウラン短期間暴露の影響

Arch Toxicol. 2006 Aug;80(8):473-80. Epub 2006 Feb 25.
Tissandie E, Guéguen Y, Lobaccaro JM, Paquet F, Aigueperse J, Souidi M.
Radiobiology and Epidemiology Department, Laboratory of Experimental Toxicology, Institute for Radiological Protection and Nuclear Safety


ウランは自然界に存在する放射性重金属である。その毒性は、骨、腎臓、肝臓、脳などさまざまな臓器で発揮される。劣化ウランを急性に暴露させた際に、ビタミンDによる骨合成経路が受ける影響に関する実験を行った。ラットに体重1kgあたり204mgの劣化ウランを胃から投与し、1日後および3日後の様々なパラメータを測定した。チトクロームP450(CYP27A1、CYP2R1、CYP27B1、CYP24A1)といったビタミンDに関連する酵素や、ビタミンD3が標的とするECaC1、CaBP-D9Kといった遺伝子を、肝臓及び腎臓にリアルタイムRT-PCRで評価した。CYP27A1活性は肝臓で測定したほか、血漿中のビタミンD・副甲状腺ホルモン値も調べた。劣化ウラン曝露ラットでは、ビタミンDが1日後に62%上昇し、3日後には68%減少しており、副甲状腺ホルモンの値も3日目に90%の減少を認めた。肝臓では、3日目にcyp2r1mRNAの量が1日目に11倍、3日目に4倍に増加していた。ecac1及びcabp-d9kのmRNAの量は、1日目には上昇し、3日目には低下していた。本研究は、劣化ウランの急性曝露が肝臓でビタミンD代謝を行っているCYP酵素の活性及び発現を修飾し、その結果ビタミンDが標的とする遺伝子の発現にも影響を与えることを示した初の研究である。」


こちらはビタミンD代謝に関連する劣化ウランの影響を調べたもので、上の要旨とは別のCYPについても研究を行っています。ここでも劣化ウランによって酵素活性、ビタミンDおよび副甲状腺ホルモンの値が変化していることが判明しました。その結果、骨にどのような影響が出るかまでは記載されていませんが、慢性的に曝露させるなどしてさらに研究を進めていくことが期待されます。

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