劣化ウラン弾の話 その15-2
「Gulf war depleted uranium risks.
湾岸戦争の劣化ウランリスク
J Expo Sci Environ
Epidemiol. 2007 Feb 14
Marshall
AC.
1Consultant for Sandia National
Laboratories
湾岸戦争およびバルカン紛争において、アメリカ及びイギリス軍は劣化ウラン弾を敵戦車の破壊に使用した。劣化ウラン弾が命中するとウラン微粒子が発生し、空中に飛散するが、兵士や一般人はこれを吸入したり経口摂取したりしたと思われる。ウランは放射性物質で、化学毒性も持っており、健康に悪影響が出る可能性が指摘されている。本研究では、数学的モデルを使用し、1991年の湾岸戦争でアメリカ軍兵士やイラク人が暴露した劣化ウランによる健康へのリスクを計算した。その結果は、劣化ウランによる白血病や先天性障害のリスクは、相当に小さく、観測できるレベルには達しないというものだった。劣化ウラン弾の誤射を受けた5名のアメリカ人兵士のみが重大な暴露レベルに達しており、劣化ウランによるガンで死亡する確率が約1.4%になるという結果が出た(他の原因によるガンで死亡する確率は24%)。これらの兵士は、一時的に腎障害になる可能性もある。劣化ウラン弾で破壊された車両の中で500時間遊んだ子供は、ガンになるリスクが0.4%増加する。動物実験などでは、劣化ウランの暴露により、免疫系などに悪影響が及ぶとされている。これらに関しては、さらなる研究結果を待つ必要がある。劣化ウランに汚染された車両に近づいていない兵士や市民は、環境からの天然ウラン摂取量に比べて有意に多くなるほどの劣化ウランを体内に摂取することはないという結果も出た。」
湾岸戦争での劣化ウラン曝露量を数学的モデルにより計算し、それに基づいて健康リスクを算出した研究。誤射により体内に弾片を残す兵士以外のリスクはかなり小さいとのことです。ただ数学的モデルが実際の曝露を正確に反映できているかどうかという問題があります。
「Health and exposure concerns of veterans deployed to Iraq and Afghanistan
イラクおよびアフガニスタンで従軍した兵士が、健康および曝露について関心を寄せているもの
J Occup Environ Med. 2007
May;49(5):475-80.
Helmer DA, et, al.
War-Related Illness and Injury Study Center, VA-New Jersey Healthcare System
目的:我々は、2004年6月から2006年1月にかけて、ニュージャージー戦争関連傷病研究センターにおいて評価された、イラクの自由作戦および不朽の自由作戦に参加したアメリカ軍兵士の臨床的な訴えについて報告する。
方法:兵士達の健康および曝露に関し、回顧的チャートレビューを作成した。
結果:56名の兵士が、健康に関して平均4つ、曝露に関して平均2.7の関心事を持っていた。兵士の55%が精神的な面での症状を訴えており、もっとも多かったのはPTSDだった。曝露に関しては、劣化ウラン、ワクチン、質の悪い空気を挙げる者が多かった。退役兵士は、現役の兵士よりも、泌尿生殖器系の症状と煤煙による曝露の影響を訴える者が多かった。
結論:南西アジアで軍事作戦に就いた兵士は、作戦に関連した健康不安および曝露に関心を寄せており、医師によるケアを要すると考えられた。」
不朽の自由作戦とイラク戦争に参加した兵士がかかえる健康への不安を調査したもの。劣化ウランの曝露に対する不安は根強いようで、これからも実態を突き止める調査研究を継続する必要がありそうです。
「Long-term mortality amongst Gulf War Veterans: is there a relationship
with experiences during deployment and subsequent morbidity?
湾岸戦争参加兵の長期死亡率:従軍期間と、その結果としての病的状態に関連はあるか?
Int J Epidemiol. 2005
Dec;34(6):1403-8. Epub 2005 Oct 26.
Macfarlane
GJ, et, al.
Epidemiology Group, Department of Public Health, School of Medicine, University
of Aberdeen
背景:湾岸戦争参加兵は、短期では、外因(疾病以外の原因)による死亡の危険性が増加していた。本研究では、従軍から13年後の現在もそのリスクが存在しているか、致死率や戦争後遺症との関係が見られるかどうかを調べた。
方法:1991年4月1日から2004年6月30日までフォローアップを行った。対象は53462名の湾岸戦争参加兵および、年齢、性別、階級、職種などを適合させた湾岸戦争非参加兵である。
結果:湾岸戦争終結から13年後、総死亡率に差はなかった。以前に報告された非疾病関連死亡の超過は、戦争後7年間に限られ(死亡率レシオ1.31、95%信頼区間1.06-1.63)、その後はほとんど差がなかった(死亡率レシオ1.05、95%信頼区間0.83-1.33)。湾岸戦争参加兵の死亡のリスクに影響はみられなかったが、劣化ウラン曝露の報告と疾病関連死亡に有意でない相関(死亡率レシオ1.99、95%信頼区間0.98-4.04)がみられ、殺虫剤の取り扱いの報告と非疾病関連死にも有意でない関連(死亡率レシオ2.05、95%信頼区間0.91-4.61)がみられた。健康調査による病的状態の報告と、将来の死のリスクとの関連は見られなかった。
結論:湾岸戦争参加兵の非疾病関連死の増加は、1997年以降のフォローアップでは著明ではなかった。健康調査で報告された病的状態の増加も、従軍経験も、将来の死亡率には影響しなかった。劣化ウラン曝露と疾病関連死、殺虫剤の取り扱いと非疾病関連死に有意でない相関がみられており、可能な関連性の状況を考えたり、潜在的なバイアスなどを考慮したり、機序が生物学的に合致するかどうか判断したりする必要がある。」
湾岸戦争参加兵50000名以上を対象とした大規模疫学調査で、非参加兵との間で死亡率を比較しています。戦争後7年間は参加兵の方が非参加兵よりも死亡率が1.31倍高かったとのことですが、有意差は出ていません。劣化ウラン曝露群では疾病関連死が1.99倍、殺虫剤取り扱い群では非疾病関連死が2.05倍となっていますが、これまた有意差はありません。経過を追っていったり、新しい知見に基づいて統計を取り直したりすれば、何か有意な差が出てくる可能性もあり、今後ともさらなる研究が求められます。
「Measurements of daily urinary uranium excretion in German peacekeeping
personnel and residents of the Kosovo region to assess potential intakes
of depleted uranium (DU).
劣化ウランの潜在的摂取量判断のためのドイツ平和維持部隊およびコソボ住民の尿中ウラン排泄日量測定
Sci Total Environ. 2007 Aug
1;381(1-3):77-87. Epub 2007 Apr 24.
Oeh U, et, al.
GSF-National Research Center for Environment and Health, Institute of Radiation
Protection
1999年6月のコソボ戦争終結後、バルカン半島で平和維持活動を行ったドイツ人が劣化ウランによる健康被害を受けていないかどうか関心が集まり、その評価のための研究が実施された。その調査は、コソボや南セルビアといった、劣化ウラン弾が使用された可能性のある地域に住んでいる住民にも対象を拡大して実施された。劣化ウランの潜在的摂取量を判断するため、ボランティア住民の尿中ウラン排泄量および水サンプルをプラズマ質量スペクトロメトリーで測定した。1300以上の尿サンプルが平和維持部隊および曝露されていない対照から採取され、ウラン排泄量の測定に使用された。113の曝露されていない人から採取した尿サンプル分析の結果、ウランの1日排泄量は13.9ngであった。平和維持部隊から採取した1228の尿サンプルを分析した結果、1日排泄量は12.8ngだった。よって、平和維持部隊と対照群ではウラン排泄量がほぼ同じであることがわかった。ウラン排泄量には個人の差が大きく、年齢による排泄量の差はみられなかった。コソボ住民の24時間蓄尿サンプルを使用し、ドイツのミュニッヒ住民を対照群として調査を行った。排泄されたウランが劣化ウランかどうか調べるため、同位体の比を測定した。ウラン235/ウラン238は天然ウランのものと誤差0.3%以内で、ウラン236/ウラン238は2×10^-7未満であり、劣化ウランではないと判断された。ただし、何名かは総ウラン排泄量が比較的高かった。劣化ウランが使用されたとみられる地域の地下水および表層水のサンプルを採取したが、劣化ウランで汚染されたとみられるものは1サンプルのみであった。結論として、平和維持部隊やバルカン半島で生活している住民は、明らかに検出できるような量の劣化ウランに曝露されていないことが分かった。」
「DAILY URANIUM EXCRETION IN GERMAN
PEACEKEEPING PERSONNEL SERVING ON THE BALKANS COMPARED TO ICRP MODEL
PREDICTION.
ICRPモデル予測と比較したバルカン半島平和維持任務従事ドイツ人の日量ウラン排泄
Radiat Prot Dosimetry. 2007
Jun 25
Oeh U, et, al.
GSF – National Research Center for Environment and Health
バルカン半島の住人およびそこで平和維持任務に就いたドイツ人の劣化ウランによる健康リスクの可能性を探るための研究を実施した。劣化ウランの摂取量を評価するため、有志の尿中ウラン排泄量をICP-MSにより分析した。性別や年齢の異なる兵士、文民、曝露していない対照あわせて1300以上のサンプルを集め、ウラン排泄パラメータを分析した。すべての参加した有志、年齢3-92才、は、評価のため、性別および年齢でグループ分けされた。調査の結果、曝露していない対照者と平和維持任務に従事した人の間で有意な差はみられなかった。それに加え、平和維持任務に就いた人の日量尿中排泄の相乗平均は、年齢別では3-23ng/dayで、文献において曝露していない人の尿中ウラン排泄量として記述されている下限よりも低かった。測定したデータを、曝露していない人の文献データに基づいてICRPが発表している日常天然ウラン摂取予測と比較してみた。結果、2つのデータは良好な一致を示しており、バルカン半島で平和維持作戦に就いたドイツ軍兵士が天然ウランもしくは劣化ウランを日常生活以上に摂取していたということは証明されなかった。」
バルカン半島で平和維持活動に従事したドイツ人と、コソボ住民の劣化ウラン曝露量について調査した研究を2つ。著者は同一人物と思われます。尿中ウラン測定の結果、両者とも特に劣化ウランに曝露しているようなデータは出てこなかったとのことです。滞在期間などがが不明なので、これを以て派遣人員全てが安心とは言い切れませんが、ネガティブデータの1つではあります。上の論文で天然ウラン排泄量の多いコソボ住民が何名かいたとのことですが、何が原因なのか少し気になるところではあります。本文中で考察されているとは思いますが。
「Urinary isotopic analysis in the UK Armed Forces: No evidence of depleted uranium absorption in combat and other personnel in Iraq
イギリス陸軍の尿中同位体分析:イラクにおける戦闘要員および他の要員が劣化ウランを摂取したという証拠はない
Bland DJ, et, al.
Kings Centre for Military Health Research, Kings College London
目的:2003年のイラク侵攻に参加した軍要員の劣化ウラン摂取を評価すること。
方法:SF-ICP-MS法により、スポット尿からウラン濃度およびウラン238/ウラン235同位体比を測定した。尿サンプルは対象を劣化ウランに曝露した可能性別に4群に分けて採取した。グループ分けは以下の通り:戦闘要員(199名)、非戦闘員(96名)、医療要員(22名)、イラクにおいて汚染された可能性のある車両の整備、修理、撤去などを行った「清掃」要員(24名)。劣化ウラン曝露が周辺で起こった可能性があるかどうか、短い質問も行った。
結果:これら4群間でウラン238/ウラン235比に有意な差はなかった。比の平均は清掃要員が138.0(95%信頼区間は137.3-138.7)、戦闘要員が138.2(138.0-138.5)であり、天然ウランの137.9に近いものであった。2名が146.9および147.7という高い値を示したが、MC-ICP-MS法で再テストした結果、測定エラーであり、天然ウランであることが判明した。劣化ウランに曝露した可能性の自覚の有無によって同位体比に有意な差はみられなかった。
結論:SF-ICP-MS法を使用した測定により、イギリス軍の劣化ウラン摂取に関する研究を行った。2名の同位体比が上昇していたが、測定法の検出限界によるもので、天然ウラン由来であると考えられた。本研究の参加者が、劣化ウランを摂取したことによる健康への影響を受けるとは非常に考えにくい。」
こちらはイギリス陸軍の研究で、尿中同位体比測定を行い、イラク戦争における劣化ウラン曝露の有無を調査したものです。戦闘要員、非戦闘員、医療要員、清掃要員と4群に分けて350名弱を調査していますが、同位体比から見て劣化ウランには曝露していないとのこと。調査人数が少なめなので、1000人単位での追試を期待したいところです。
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